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~幻想を帯びた中での現状~


 リロスたちと別れて、貴方は浮島の小さな町を歩く。月は今日も満月で、その明かりがコンコンとこの場所に降り注ぐ。おかげでそこまで明かりも必要としない。柔らかく、優しいそれに包まれている感覚。


 忘れた者である貴方はわからなかったが、この満月は浮島特有の現象なのだという。月は満ち欠けが起こるものであり、常に満月ではないと貴方は聞かされた。幸いなのは、これが原因で問題が起きているという話はなかったこと。どうしても変えなければいけないのであれば、それは残念に感じるだろうなと、この夜の風景が気に入っている貴方は思っている。


 夜空に貴方は目を向ける。満月と少しばかり見える星、それ以外はない景色。ここには空を見るのに邪魔する雲もない上空で、この時間帯になればいつでも見ることができる。


 芽生えるのはこの景色に惹かれる自分の心、貴方は、この景色を見るところで過ごしていた人間なのか、思いを馳せている。


「こんなところにいた」


 聞きなれた声、振り返り、石でできた街路の先にクルダがいた。幻想に包まれた場所いまでは、その姿はどこかおぼろげだったものの、慣れた貴方はすぐに気づいた。少々ご立腹ということに。それを証明するように、重く早い足取りでこちらに近づいてきた。


「あんたねぇ、こんな時間までどこほっつき歩いてるのよ?」


 彼女は人差し指を出した状態の手を、貴方の胸に当てる。怒ってはいるようだが、本気ではないことがわかって貴方は胸をなで下ろしつつ、ナナシに会ったところから今までのことを説明した。リロスと居たことについては、クルダは他の人間達と同様、何かトラブルを起こしたのか聞いてくる。


 リロスは、この場所での法を守らせる番人なのはわかっている。だとしても、皆が見せる反応が気になり、貴方はクルダに聞いた。彼女に何か問題があるのかと。


「…。あたしも詳しくは知らないけどね。唯一、この場所で人を殺してるのに、外に出てるって聞いたわ」


 苛烈な印象を受けなかった貴方は、驚く。それを見たからか、クルダは聞いただけだからと強めに強調してきた。


「そもそも、マリーが許すなんて思えないわ。あたし達を捕まえていいから、それをよく思わない誰かが流した噂よ」


 取り繕うような様子に、貴方が笑うとクルダはムッとした顔をする。前ならまた怒らせたかと焦る貴方だったが、それも本気ではないことはわかって、のんびりと構える。信じてないのかという問いに、信じたと答え、それにぶつぶつと彼女は何かを言っている。話題を変える為、貴方は自分を探していた理由を聞くことにした。


「あんたはいろいろ忘れてるし、この時間でも自室に居なかったら何かしでかしたかもなんて思うのは当然でしょ!」


 危険な事をするような子供にでも見えるのか、貴方は聞いてみたいと思った。ただ、それを聞くには心配そうにしている可愛らしいクルダの表情が邪魔をする。


 好意として捉え、そのことに貴方は礼を言う。自分の為よと言いながら、そっぽを向いた彼女に態度は、照れ隠しなのはすぐにわかる。歩き出したクルダに追いつくため、早足で追いついてからその横を一緒に歩く。しばらく歩けばこの先に、貴方とクルダの自室が用意された宿がある。まだ帰る予定のなかった貴方だが、彼女と帰れることになぜか満足していた。


 街の景色は、相変わらず幻想的に映る。月明かりというのは、存在をおぼろげにする作用でもあるのか。けれど、側にいる彼女の存在は、貴方にははっきりと感じられた。一緒に街路を歩く足音、夜の空気とそれに混ざる彼女の体温におい、それは幻想的ではない。


 話題もなく静かに歩く。それが勿体なく感じた貴方は、自分が好きなこの場所の夜の雰囲気について、クルダにも感想を聞く。


「…明るいから楽よ」


 貴方としては的を得るものではないとしても、そういう考え方がある、ということは忘れた者である貴方にとっては貴重なものだった。


「ヴェルは?」


 思っていたことそのまま伝える。


「好き、ね。あたしは、夜そのものは嫌い。この満月じゃなかったら、外に出る気もしないわ」


 そのままクルダの視線は夜空の満月を捉える。睨むわけでもなく、綺麗なものを眺める訳ではなく、どこかそう。貴方は彼女は何かを求めている気がした。真似るように貴方も満月に視線を向けたが、今の状況に呑まれたからか、貴方も先ほどよりも好きではなくなってしまった。


 いつの間にか視線を戻していたクルダは、貴方の服の袖を軽く引っ張り、それで貴方は幻想から戻ってくる。満月を見ながら歩いたからか、宿はだいぶ近づいていた。


「戻ろ」


 そしてそれに貴方は頷いた。

影響の根源は。


常に外から。

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