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~夜の空気は2合まで~


 リロスは貴方の前で、ゆっくりと晩酌をしている。特に何かを当てにするということもなく、淡々と酒だけを飲み続けていて、貴方が大丈夫かと聞くといつもこうだと返ってきた。


 今いるのはもはや貴方も馴染みなった食堂。人によっては、与えられた家で自炊することもあるが、島のこういった運営を担う人間以外は大体は入塔者。疲れでそんな余裕はなく、この食堂で済ませるのが大体だ。また、要望によって食事以外にも酒といった物も置かれていき、大衆居酒屋と言っていいかもしれない。


 食べ物はいらないと言ったリロスだが、なぜか貴方に食べ物を勧めてきて、今貴方はそれを食べている。肉を乾燥させたサラミ、動物の乳から作るチーズ、木の実の塩漬けといったもの。それらは全て、言ってしまえばお酒のつまみに当たるものだった。貴方はそれらと一緒に、酒ではなくパンを食べている。


 周囲は貴方達を見ている。見ている中の人間には、話はしないでも食堂で何度か顔合わせした人もいた。最初を除けば、その後こちらを見てくることもなかった。そういうことから、リロスがここにいることは珍しい事なのかもしれない。


「気になるさね?」


 首を傾げ、貴方の受けた印象の通り、悪戯っ子のような笑みで聞いてくる。艶めかしいと言っていいかもしれない。それにドギマギしながら、何かあるのかと尋ねる。


「そりゃあお前さん。自分に何かするかもしれないヤツがいたら、気分も悪かろうさ」


 慣れた様子で話して、コップに入った酒を飲み干す。リロスは看守と名乗っていたが、そういった犯罪者を捕らえることや刑罰の執行と言った部分も担っていることから、法の執行者というのが正しい立場だった。刑を決めるのはマリーの仕事だが、それでも正当性をまとわりつかせ、何らかの理由を付けてここにいる人間を捕らえることはできる。そういう畏怖の側面があると言っていい。


 だから、そんな人間と、新参者が一緒に食事をしているのであれば。


「取り調べを受けているように、見えているんだろうさ」


 新参者はまだまだ素性の知れない者。その後の動向で、危険と判断されて静かに内定しているように、見ようとすれば見えるだろう。もちろん、リロスは久しぶりに訪れた客人と、何となく話がして見たくなって誘っただけだ。


「あれ? もしやの鞍替えー?」


 のん気な声と共に、こちらにやってくるのはラクル。いつも通りどこかだらしない格好のまま、こちらの有無を言わさないまま同じテーブルの席に座る。


「勤務中、呑んでいたかのような態度だね」


「ないない。素面素面、ねて…、ないでちゃんとやってたよー」


 どうやら今日も寝ていたらしい。それを指摘してみたい気持ちも沸いたが、その場合リロスが容赦しないことも考えると、言葉の代わりにサラミを口に放り込んで、貴方は黙った。


 興味津々に、なぜ一緒にいるのかというラクルの質問に、リロスが代わりに自分が話してみたかったと答える。そのせいで、ラクルの目に疑いが混ざったように感じられたものの、言葉通りの興味とわかるといつも通りに戻った。


 ラクルも馴染みのメニューを頼んで、そのまま3人で食事になった。未だにリロスは一定の間隔でお酒を呑み続けているが、貴方は食事が終わった手持無沙汰で、店内を見渡す。問題がないということがわかったからか、他の入塔者達は思い思いの食事をして、こちらを気にする者はいなくなっていた。見られ続けるよりは楽になったと感じ、ラクルの食事を持ってきた店員に貴方はお茶を頼む。


「もー、もうちょっとだけ食事に付き合うとかないかなー?」


 その言葉に貴方が悩むと、忘れた者に冗談は通じると思うかとリロスの指摘が入る。悪びれない様子で言葉だけ謝り、ラクルは食事を始める。話す方である彼女も、流石に口に物が入っている時は静かになるのか。しばらく静かな時間が続いた。


「それでさー、クルダちゃんとはうまくいってるのー?」


 とはいっても、ラクルの食事が終われば、またにぎやかさが戻る。貴方は聞かれたことに、しっかりと剣技を学んでいることを話して、彼女に微妙な顔をされてしまう。


「やれやれ、いつも思うが、ラクルは人の話を聞いているのか?」


「聞いてるよ!」


 言いたいことは、貴方が忘れた者であるということ。そのことに気づいて、以前の自分はこういう場をどういう風に振る舞っていたのか、少し思いに馳せた。

それでも。


もう決まっている。

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