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~黄昏の色はいつも濃く~


 訓練の事故から数日経って、なぜか貴方はナナシと浮島の街を歩いていた。


 しばらく、クルダとの訓練を積んでから塔を改めることになり、今日も貴方は彼女から教えを受け終えた後、用意された部屋に戻ろうとしたところで、彼に捕まったところだ。


 会った時は自分を忘れたことなどで余裕はなかったが、その時の対応がひどく勝手だったこともあり、貴方はナナシに良い印象はない。そんなことを知ってか知らずか、彼は相変わらず飄々とした様子。


「なんだい? 俺の顔に何かついてっか?」


 そのふてぶてしい笑みに、知ってか知らずかという部分を貴方は訂正した。この男は、貴方が彼を苦手としていることをわかった上で接してきていると、理解できたからだ。ただ、そうなると嫌がられる事を理解して接触したからには、それなりにまともがあって不思議じゃない。しかし、そんなものもないように彼は先へと進んでいく。


 陽も傾いてきている。昼ではないが夕方でもない、そんな半端な時間だ。食事時ではないことからして、彼がそういった類のところに用はないはず。それ以外はまだ施設を把握していない貴方には、皆目見当がつかない。


 街から離れて、何もないように見える空き地まで、貴方はナナシに連れてこられた。


「お前さんは大丈夫だとは思うけど、認識はしてもらわんと」


 何もないように見える原っぱの上を、ナナシはノックする。しばらくして、長方形型に地面が凹み、横にスライドした。現れたのは、地下に続く階段と明かり代わりの松明が壁に、一定間隔で灯されていた。


 驚いている貴方に、ナナシは変わらない調子で遅れずついて来いと先を歩いていく。一緒に階段を下りていくと、扉は自動的に閉まる。降りきった先の長い廊下が、塔の入り口の廊下と似ていることもあって、貴方の不安感は増していく。


 説明されていない、新たなエリア。もしここが塔と同じなのであれば、死んでしまう恐れがある。自然と、支給されている短剣に貴方の手はいく。


「安心しろい。危険な場所なのは否定せんけど、ここは浮島と同じ、死んでも帰ってはこれる」


 警戒した気配を感じたのか、貴方を見ないまま右手を軽く上げて横に振り、彼なりに貴方の考えを否定した。少しだけ気持ちを取り戻して、警戒を解くことはできなかったが、短剣から貴方は手を離した。


 そんなやり取りで長い廊下も終わり、真っ直ぐしかないその先にあった扉をナナシが開ける。松明があるとはいえ、薄暗く感じた廊下の方に、陽の光が差し込んで、暗闇に慣れた目がそれに覆われて少しだけ何も見えなくなる。


「罪人かえ?」


 その声が、なぜか粘着質に貴方に感じながら、扉の先に入る。廊下と同じで石を主体に作られた一室、というべきなのか。正面の壁側に窓があり、左側に机と本棚。右側は鉄格子がはめられた廊下が続いているのが見える。


その廊下側を覗いてみると、今いる一室と同じ左側が窓、その右側にこれまた一定間隔で木製の扉がいくつかがあり、その先は突き当りだ。


「こんな辛気臭いに、新参者連れて何用さね」


「新参者だから連れてきてんだ」


 2人のやり取りで、貴方は後ろを振り向く。ナナシと話している相手は女性で、全体的に緑色の装いだ。つばのある帽子、何かの制服、黒のタイツとくるぶしより上側にある靴を着用して、腰には警棒と縄がぶら下がっている。


「人をじろじろ見て、面白いものでもありよるかい?」


 わずかに青みがかかった白の長髪が、首をかしげたことで動く。表情も、貴方を値踏みしているようにも見えたが、目つきは鋭さはあるものの、どこか悪戯っ気のある大人びた顔つきだった。


「わかると思うが、ここがこの浮島の牢獄よ。お前さんも、入ることはないと思うがな」


 じゃ、満足したら好きにしていいぞと、ナナシは貴方が止めるまもなく帰っていった。相変わらず、自分勝手だと貴方は少し腹を立てた。そして、今しがた相手をしてくれている相手も、それは同じだったようだ。


「まったく。あぁ、自己紹介が遅かったね、リロス。ここの看守さね」


 名乗られた貴方は、同様に自己紹介する。その礼儀正しさが良かったのか、なぜか堪えたように笑いながら、珍しい人間だねと言われてしまう。


 せっかくここまで来たのだから、どうしてこんな場所があるのかリロスに確認する。彼女曰く、抑止になるからさと答えた。どんなに争い事があっても、法自体はある以上、投獄される。その認識による抑止と、もう1つ。


 浮島内では殺されても死にはしない、しかし、殺されたからと言って問題がない訳ではない。殺された相手はまたいくらか忘れた状態になる。殺され続ければ、本当に何もない存在に成ってしまう。それは当然、容認できることではない。そして、それをしてしまった人物はこの場所に投獄される。


「殴り合いの喧嘩もご法度。その場合も、ここで一日頭は冷やしてもらう訳さな」


 なら、人を殺した場合と、貴方が尋ねる。


「その場合、マリーの許しがない限り一生。一生この穴倉の中で過ごすさね」


 目は、笑っていなかった。外から入ってくる夕日が射し、それに照らされているせいか、それを浮き彫りにしているようだった。

人は獣か。


法は人か。

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