~危険に伴う認識能力~
貴方は目を覚ます。しばらく働かない頭に任せて、ようやっと何があったか思い出す。周りを見れば、そろそろ見慣れ始めたこの場所では一般的な一室のベッドで横になっていた。身体を起こしてベッドの横に座る。今いるベッドから見て、そこから見て右側に窓、正面やや右は簡素な机と椅子。正面のは恐らくクローゼットで、奥に出入り口となる扉があった。
砂利に足を取られてそのまま派手に転び、後頭部を打ったまでの詳細を鮮明に思い出して、少し鈍い痛みがその頭から奔る。戦闘訓練中であっても、この理由は恥ずかしいものの中に入るだろう。ただ、ここはどこかわからないにしても、運んでくれたであろうクルダにお礼は言わなければいけない。そう考えて貴方は立ち上がろうとした。
「あら、お目覚めだったのですね。良かったです」
中に入ってきたのはマリー。いつも通りの笑顔ではあるものの、目が心配そうに貴方を伺っている。その意味を察した貴方は、大したことはないと告げる。が、ゆっくりとマリーは近づいて無言で貴方をベッドへ横にさせる。
「無理はいけません。なんであれ、気を失う衝撃だったのです、今日は一日お休みください」
優しく、そして母のような言葉に貴方は頷いた。見た目は可愛らしい少女にしか見えないマリーだが、佇まいや言動は賢母そのものであり、振る舞いは貴族のような優雅さ。王、という立場にいることは不思議ではないと貴方は思う。
扉がノックされる。しかし、入ってくる気配はない。貴方が誰だろうと考えると、マリーが大丈夫ですよと声をかける。それから少し間を置いて、ゆっくりと開けられた。
入ってきたのは、いつもの革製の胸当てと銀製の小手。十字の印が入った剣を腰に差している少女。しかし、いつもと違うのは勝気な目が、陰気に伏せられているクルダの姿だった。ゆっくりと貴方に近づいてから、一言大丈夫と聞かれ貴方は頷いた。
「貴方のことを心配していたのですよ」
「…そんなんじゃないわよ」
まるで、母親に怒られてばつが悪そうにしている子供のような態度をクルダはしている。
「では私はいったんこれで失礼いたします。マリーは今日一日、浮島で待機です。側にいてください」
マリーは軽く貴方に一礼してから、部屋を出ていく。マリーが座っていた椅子にクルダが座り、そして2人に残された無言。こんな事態が起きたのは貴方の力不足によるところだが、そういうことが起きえると配慮せずに訓練を始めたマリーの落ち度でもある。あえて問題の理由付けをするならそんなところであって、実際のところ誰も悪くはないただの事故だ。
「ごめんね…」
貴方が口を開こうとした矢先、マリーからのその言葉に驚く。こう言っては悪いが、彼女を謝るような性格だとは思っていなかった。大丈夫だと答えると、マリーはホッとしたような様子を見せて椅子に深く座る。
「あ、でも。あんたも悪いんだからね。今回はあたしがちゃんと看てあげるけど、そこもちゃんとわかってよね」
余裕が出来て、いつもの調子を取り戻している。なんだか、そのことが貴方には嬉しかった。クルダが悲しんでいたり、落ち込んでいるのはあまり見たくはないという思いが、強く残る。
「訓練はこの浮島にいる時だけにするわ。これが本当に大変なことになったら…、その、ヴェルが本当に死んじゃってたから…」
落ち込んでいる理由が貴方はわかった。すでに受けていた忠告、塔内での死亡は本来の意味での死を迎える。それは遭遇した敵に襲われたことだけを考えていた。しかし、よくよく考えればこういったことで死亡することはあり得る。というよりもそうなった可能性があった。だから、クルダが申し訳なさそうにしていたのだ。
起きたのは確かに事故。しかし、その事故が起きた時に最悪が起きたら、責任の取りようがなかった。配慮が足りないと言われても仕方ない。だが、それでも貴方は彼女を責める気にはならなかった。現に目を覚ますことが無事できたし、何より彼女がそれでこれ以上の責任感を感じてほしくなかったからだ。
これからは安全に教えてもらえるのは嬉しいと、重くならないように貴方は話す。彼女の硬い表情が少しずつ優しくなっていくことの方が、貴方には重要に思えた。
「…ふふ、あんたって変わってるわね」
笑みまで出せたことに勝利した気分にさえ貴方はなる。これで後は貴方自身が軽度とはいえ、痛む頭を治せば終わりだ。その為に、しばらく彼女と貴方は話した後、ゆっくりと眠ることにした。
かくて次幕に引き継がれる




