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第1話「大冒険の計画」

世界は何も変わらぬまま時を刻んでいた。その日が来るまでは。

 突如として世界各国に謎のトンネルが出現し、異世界の扉が開かれた。人間に近いが人間ならざるものが暮らす異世界はアイナドレミルと呼ばれていた。世界はアイナドレミルが人類にとって脅威になるものと思い、いずれ来るだろう侵略に恐怖した……がそれはただの杞憂で終わった。

 アイナドレミルの人々は侵略など考えていなかった。彼らは平和的な交流を望んだのである。

そして、世界各国とアイナドレミルとの間で国交が結ばれた。


 それから五年、世界各国にはアイナドレミルからの旅行者や移住者が多く見られるようになった。そう、世界的にはちょっと変わった人種と国が増えた程度の影響であったのである。

 僕が住む東京も例外ではなく、あちらこちらでアイナドレミルの人々をよく見るようになった。今いる教室の中にも。

 ここ宮川学園高校はアイナドレミルからの留学生が学びに来る高校でクラスの半分はアイナドレミルの人々だ。容姿は様々な彼らのおかげで教室内はそれだけでファンタジーの世界だ。

 僕、有坂(ありさか) 郁人(いくと)は大のファンタジー好きだ。だからこの高校に入学した。ゲームや小説の中でしか会えないと思っていたファンタジーの世界を追体験できるような毎日で僕はこの学校に入学できてとても幸せだった。

「で、あるから、アイナドレミルとの国交が結ばれたのは……」

 教壇では世界史担当の桜庭先生が教鞭を振るっている。

 桜庭先生はクラス担当の先生でもある。先生は世界史とアイナドレミル史の両方を担当していて、アイナドレミルにも行ったことがあるのだ。そして何よりも美人で授業もわかりやすく、ノリもいいので生徒に大人気の先生だ。

「じゃあ、次は20ページの内容ね」そう言われたので僕は教科書をめくろうとした、がそれはできなかった。隣の席の留学生、獣人族(ティアリュージ)のリノンが僕の教科書の半分を枕にし寝ていた。リノンが教科書を忘れたと言うことだったのでこうやって見せていたのはいいけどどうやら先生の授業を子守歌に寝てしまったようだ。しかもよだれが垂れているし……。

「リノン起きて。ページがめくれない」僕は桜庭先生に気づかれないように小声でリノンを起こそうとしたが、リノンは特徴的な猫のような耳をぴくぴくと動かすだけで起きようともしない。

「リノン、寝ちゃまずいって……」

 僕がリノンの体を揺さぶってみた。

「うぅん……」唸ったっきり反応がない。早く起きてもらわないとページはめくれないし、桜庭先生は授業をまじめに聞いてない生徒には厳しいから、確実にリノンが怒られる。

「あ・り・さ・か・くん?」

「はい!?」

「いいのよ?貴方が起こさなくても。私が起こすから」

 どうやら気づいていたらしい。桜庭先生は笑顔のままで教卓にあった出席簿を片手に近づいてきた。どう見ても怒っている。

「リノンちゃん、最後のチャンスよ?起きているかしら?」

「…………ぐぅ」

 どうやらリノンの運命は決まったらしい。桜庭先生は笑顔のまま出席簿の角でリノンの頭を叩いた。

「痛っっったぁー!!!!」

叫びに近い声を上げ、ふさふさのしっぽの毛を逆立てリノンは飛び起きた。若干涙目になっている。

「やっと起きたわね」

「その起こし方は痛いよ!あかりちゃん!!」

「あら、寝ている方が悪いんじゃなくて?あと、光莉ちゃんじゃなくて桜庭先生ね?」

「あかりちゃんはあかりちゃんだし、それに眠くなる授業の方が……あっはい、すいません桜庭先生、だから出席簿を出さないで!これ以上殴られたら、ただでさえ小さい背が縮むし、バカになる!」

「それ以上背は縮みませんし、頭もそれ以下にはならないでしょ?」

「さらっとひどいこと言ったね……」

このやりとりにクラスのみんなは呆れたような笑みを浮かべていた。この光景は何度も起きている。日常茶飯事と言っても過言ではないかもしれない

「じゃあ、バカになってないか試してみましょう。授業のおさらい、アイナドレミルの構成について行ってみてちょうだい?」

「そんなの簡単だね」

リノンは得意げな顔をしてノートを手に取り、回答し始めた。僕のノートをを使って。

「アイナドレミルは3つの国から構成されてて、1つはアタシの出身、獣人族(ティアリュージ)の国ポーレラント。もう1つはヴァルトリュージ……こっちだとエルフだっけ?の国レスラント。最後の1つこっちだとオークって言われているダモンリュージの国ヴルカンラント。この3つで構成されている。どう?完璧でしょ!」

 見事なほどのドヤ顔を決めるリノン。僕のノートを使ったことを除けば回答は完璧だ。

「お見事!有坂くんのノートを使ってなかったら完璧ね」

「ちぇー」

 リノンはふてくされたような顔をして僕にノートを返した。

「アイナドレミルの構成についてはリノンちゃんの説明でおおよそ正解ね。補足をすると、レスラントは南北が山で隔てられていて、南にはエルフ、北にはダークエルフが住んでいるわ。ヴルカンラントにはオークの他にも種族がいるわ。また、リノンちゃんの説明にはなかったけど、今は誰も住んでいない大地、レズルタトエルデというのもあるわ。個々は主に古代遺跡があって、現在人間とアイナドレミルの種族との強盗調査が行われているわ。この内容は今度の期末テストの範囲だからちゃんと覚えておくようにね」

 そう言い終わると同時の終業のチャイムが鳴った。

「じゃあ、今日はここまで。次回の内容までがテスト範囲だからリノンちゃん、次回はちゃんと起きているのよ」

「はーい……」

 その返事に満足したのか桜庭先生は教室をあとにした。

 休み時間となり、リノンはまだ頭が痛いのか叩かれた箇所を手で押さえていた。

「今日はひどい目に遭ったよ……」

「今日もじゃないの?それに寝ているリノンが悪いでしょ」

「それはこの暖かい日差しとあかりちゃんの授業がいい感じに眠気をだね……」

「桜庭先生にそれ言ったらまた叩かれるよ。あと僕の教科書によだれ垂らすのはやめてよ」

「いいじゃない、可愛い女の子のよだれの付いた教科書だよ?マニア受け間違いなし!」

「そんな趣味は僕にはないよ」

  僕らが談笑していると1人の女の子が近づいてきた。プラチナブロンドの長い髪をポニーテールにし、特徴的な先が尖った耳と透き通るような白い肌。僕らの友人でエルフのシルヴィーナだ。

「リノンさんは今日も賑やかですね」

「ヴィーナちゃん!まだ頭が痛いよーぅなでてー」

「はいはい、よしよし。これもいつも通りですね」

 腰に抱きつくリノンの頭をなでるシルヴィーナは、まるで子供を荒らす母親のようだ。この光景もいつも通りだ。

「まーた派手にやってたな!」

 声のする方を向いてみると、そこには身長2メートルはあるだろうと思われる巨躯で土色の肌に短く切りそろえた赤い髪、僕らの友人でオークのロイグが立っていた。

「またとは失礼ね!」

「桜庭先生の授業の時はだいたいこんな感じだろ!」

 ロイグはそう言うとニッカリと笑った。

「むぅ……なんでみんな眠くならないかな……」

「横でリノンが寝てるし、寝たらばれちゃうしなぁ……」

「私は別に授業中は眠くなりませんわ」

「俺が寝たら一発でばれるしな!だいたい授業はまじめに聞くものだろ」

「みんな真面目過ぎる!何より、授業を真面目に受けなさそうなロイグが真面目なのがおかしい!」

「何だと!?むしろ、お前が寝過ぎなだけじゃないか!」

「なにをぅ!?」

 にらみ合う2人、このあと取っ組み合いになるのもいつもの展開、取っ組み合いというより、ただでさえ小柄なリノンが高身長のロイグにじゃれているようにしか見えないのが微笑ましいのである。

「あの2人は置いておいて……郁人さん、放課後空いていますか?」

2人を横目にシルヴィーナが話を始めた。

「空いているよ。何かあるの?」

「はい、期末テストも近いですし、どこかで勉強会というのはどうでしょうか?学生というのはテストが近くなると勉強会をするというのを聞いたことがあるのです」

「いいけど、何処でそんな情報を……」

「アタシのマンガだよ!」

 ロイグの大きな手で頭をわしづかみにされながらリノンが答えた。

「そんなことだろうと思った……リノン、あんまり変なマンガは貸しちゃ駄目だよ、シルヴィーナに変な影響を与えちゃうから」

 前にリノンがシルヴィーナに貸したマンガの影響で僕らはさんざんな目に遭ったのだ。

「わかってますよーだ」

「勉強会か、面白そうだから俺も参加するぞ」

「では、放課後に皆さんと勉強会ですね!」

 話がほぼほぼまとまると始業のチャイムが鳴った。

「では、私は席に戻りますね」

「今日の最後の授業か、リノン寝るなよ!」

「うっさい!」

2人は自分の席へと戻っていった。最後の授業でもリノンはうとうと寝てしまっていた。



 そして放課後、僕らはファミレスで勉強会をすることになった。

「うぅぅぅ……疲れた!」

 広げたノートに突っ伏しながらリノンが不満そうに言った。

「さすがに速すぎだよ……」

 僕とシルヴィーナとロイグはそんなリノンを横目に、テスト範囲の内容まとめをしていた。シルヴィーナのノートは凄く細かく書き込まれていた。よく見ると授業中での先生の些細な発言も書かれていて、真面目なシルヴィーナの人柄がよく表れていた。一方のロイグのノートはというと、シンプルで確実に要点を押さえているノートだった。重要な箇所は赤ペンで書かれていたりと彼ながらの工夫がされていた。一方のリノンのノートだが、一応書き込まれているのだが、汚く書き殴って書いているので何が書いているかわからない、しかし、リノンにはわかるようである。

「だいたい、期末テストなんて必要なの?毎日勉強受けてるだけじゃ駄目なの?」

「そもそもリノンは真面目にすら授業を受けてないじゃないか」

「勉強は学生の本分ですよ。リノンさん」

「全く、お前は何のために留学してきたんだよ」

「それはもちろん、この世界にあこがれたからだよ!向こうと違って色々便利なこっちの世界にさ。あーあ、魔法でも使えればこんなものすぐに片付きそうなんだけどなぁー」

「リノンさん、さすがにファンタジーものに影響されすぎですわ」

「いや、絶賛ファンタジーな君たちがそれを言っても説得力ないよ」

「まぁさっさと終わらせようぜ!」

 こうして、僕らは談笑を交えつつ勉強にいそしんだ。そして、勉強に一区切りがつき、期末テストのあとに控えている夏休みについての話が始まった。

「みんなは夏休み中にアイナドレミルへ帰るの?」

 僕はふと思ったことをみんなに聞いてみた。みんな帰ってしまうと少し寂しい夏休みになりそうだ。

「アタシは悩んでるよ……家族の様子は気になるけど、こっちで夏の祭典とかあるし……でもお金が……」

 リノンは何だが悶々して答えた。夏の祭典……?まさか有明の?

「私は帰ると思います。入学してから一度も故郷に帰っておりませんから」

「俺は帰るぞ。向こうの様子が気になるしな!」

 どうやら2人は帰るようだ。

「いいな、アイナドレミル。僕も行ってみたいよ」

 僕はまだ見ぬアイナドレミルを思い浮かべ、そう言った。

「向こうに行ったって特に何もないよ?」

 リノンは渋い顔をしていった。彼女からすればそうなのであろう

「でもさ、僕にとってはあこがれなんだ。夢にまで見た世界にいってあちこち見て回りたいんだよ」

「じゃあさ、行っちゃう?アイナドレミル」

 リノンがいたずらっぽく笑みを浮かべ聞いてきた。

「……えっ?それってどういう?」

 僕は一瞬リノンが何を言ったのか理解できていなかった。

「夏休みの間、アタシ建ち4人でアイナドレミルを旅するってのはどう?」

「それはいい考えですね。実は私、レスラント以外のことは疎くて、一度各地を回ってみたいと思っていたのです」

「面白そうじゃないか、その話乗ったぜ!」

「それって、僕らが向こうで旅をするってこと?僕がアイナドレミルを?」

 僕は突然すぎる話と展開に頭がついていってなかった。

「そう言ってるでしょ。行きたくないの?」

「いや、行きたいけどさ。大丈夫なの僕みたいのが行っても」

「大丈夫です!私たちがサポートします」

「全く危険が無いとは言えないけど、いざとなれば俺がなんとかするぞ」

「みんな……」

「で、イクト。どうするの?」

 僕はリノン問いに

「うん!行くよ!アイナドレミルに」

 と勢いよく答えた。断る理由などどこにもなかった。



こうして、僕らは夏休みの間、アイナドレミルを旅して回ることにした。多少の不安があるがこの仲良し4人パーティーなら乗り越えられると僕は思っていた。僕は期末テストを終えたら始まるであろう、偉大な旅に思いをはせるのであった


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