56 応援と頑張り
「……私も、頑張ってみようかな」
「……え」
ぽつりと呟かれた一言に、僕は思わず司波さんを見る。
その言葉は僕が望んでやまなかった言葉。
司波さんはそんな僕の気持ちを知ってか知らずか、スカートの端をぎゅっと握っている。
「あんたの言う”一瞬”ってやつを、私も見てみたくなったの」
そして司波さんは視線を僕に向けながら言う。
その視線は力強く、恐らくそこに僕の意思が入る余地はもはやないのだろう。
そもそも入る意味が無い。
司波さんが配信をやめずに頑張って続けようと言ってくれているのだから、どうしてそこに僕が何かを言う必要があるだろうか。
「で、でも……」
「……?」
すると途端に司波さんの歯切れが悪くなり、視線も下がる。
いつもの司波さんの調子を取り戻してきたかなと思ったのに、一体どうしたのだろうか。
僕は俯く司波さんを心配しながら、続きの言葉を待つ。
「今日みたいなこともあったし、やっぱり一人で配信するのは怖い、かも……」
「…………」
それは正直、仕方ないと思う。
配信をしていてストーカー被害に遭うなんてことは僕でも経験したことがなく、その恐怖というのは僕には計り知れない。
そしてそんな恐怖と戦いながら配信をするというのがどれだけ大変なのかも、僕には分からない。
僕は司波さんの言葉に何も言ってあげることが出来ない。
なぜならそれは僕がどう足掻いたところで最終的な何かをしてあげられるわけじゃないのである。
今僕に出来ることと言ったら、司波さんの意思を尊重してあげることくらいのものだ。
「だ、だから……」
僕は司波さんの続きの言葉を固唾を飲んで待つ。
司波さんは下げていた視線を徐々に上げていき、そして再び僕へと向けてくる。
その視線は先ほどの力強いものじゃなく、まるで何かに遠慮するかのような、そんな感じだ。
「これからも私の配信、手伝いなさい、よ……?」
「……はい?」
しかし、さすがにそんなことを言われるとは思っていなかった僕は思わず自分の耳を疑う。
そんな僕に司波さんは顔を逸らしながらも、横目で拗ねたような視線を向けてくる。
「や、やっぱりストーカーなんて遭う奴の手伝いは嫌だっての?」
「そ、そんなことは全くないけど……」
何だろう。
このどうしようもなく形容しがたい司波さんの可愛さは。
これまでも可愛いとは思っていたけれど、今は身分不相応にも司波さんの頭を撫でてあげたい気分である。
もちろんそんなことはしないが、それでも司波さんがそれくらい可愛いのは本当だ。
「司波さん」
「な、何よ」
僕が司波さんの『四葉』としての配信を手伝うのは当たり前なことなのに、今更なにを言っているのだろう。
しかしそんなことでも司波さんにとっては真剣に悩むことだったのだろうし、僕もちゃんと答えるのが義務だ。
「僕はこれからも、司波さんの配信を手伝うよ」
「……そ、そっか、うん」
「だから安心して、これからも配信を頑張ってほしいな」
僕が司波さんの配信を手伝うことで、司波さんが自分の配信を頑張れるというのであればそんな簡単なことはない。
むしろ僕から手伝いを願い出たいくらいだ。
「……うん、頑張る」
司波さんはただ一言、頷く。
いつもみたいに何か文句や強がりを言うでなく素直に頷く司波さん。
その姿を見て僕は、僕自身、これからは、これまで以上に司波さんの配信の手伝いを本気でやっていきたい。
そして司波さんが、四葉さんがもっともっと多くの人に支持されるように、一番近くで応援していこうと思った。
「じゃあ早速、今日も手伝ってもらおうかしら」
「えっ!?」
それから少しして司波さんはさも当然のように言ってくる。
しかしまさかそんな急にとは思ってもいなかった僕は当然のように慌てるが、司波さんはそんな僕を逆に不思議そうに見てきている。
「だってまだ毎日配信は続いてるし」
「た、確かにそれはそうだけど……」
でも司波さんはついさっきストーカーの被害に遭ったばかりなのに、本当に配信をして大丈夫だろうか。
「あんな奴のせいでこれまで続けてきた毎日配信をやめるとかあり得ないから」
「…………」
しかし僕の心配など知った様子もなく、司波さんは力強く拳を握る。
もはやストーカーに遭ったことなど忘れてしまったかのような素振りに、じゃあどうしてさっきは悩んでいたのだと言いたくもなるが、ここはぐっと我慢だ。
もし司波さんの気が変わって配信をやめるなんてことになったら元も子もない。
「えっと、家に帰る?」
「…………」
司波さんが配信をするということはつまりそういうことだと思い聞いてみたのだが、どうやらそういうことではなかったらしい。
司波さんは射殺すような視線で僕を睨みつけてくる。
「で、でもそれじゃあどうやってする気なの?」
「別にパソコンからじゃなくたって、携帯とかからでも配信出来るから」
「な、なるほど」
僕はこれまでずっとパソコンでばかり配信をしてきていたのでその発想はなかった。
しかしそれだと一つ気がかりなこともある。
「でもそれって音質とかは……?」
「まぁ、マイクじゃないから多少は悪いだろうけど……」
でもこの際仕方ないじゃん、という視線をこちらに向けてくる司波さん。
しかし『四葉 鈴』の配信は結構人気も出てきていて配信に来てくれる人も多い。
調子が出てきた今の状態で、普通の配信を携帯でしてしまうのは多少なりともマイナスな面があるだろう。
だが誰もいない家にストーカーに遭った女の子を一人帰すのは気が引ける。
僕は色んな状況を鑑みて一つの解決策が思い浮かび、溜息を吐く。
「ねえ司波さん、今日は僕のパソコンで配信をしなよ」




