14 クラスメイト
今回は三人称で書いています。
これから一人称の合間に三人称を挟んでいくと思いますが、
『りょう』が『亮』ではなくなった時に、三人称になると思ってくれたらいいと思います。
では、どうぞ。
「なんで私、あんなこと言っちゃったんだあああ」
凛は照明が照らす部屋の中で一人パソコンの前に座りながら呟いた。
あんなことというのはもちろん、つい先ほどまでこの部屋にいたクラスメイト――倉田 亮に対するあれこれである。
自分の憧れの人であったり、亮の声が落ち着くであったり。
そして極めつけは「もうちょっと、ここにいてくれない?」である。
それが自分の口から発せられた言葉だと思うと、凛は後悔せずにはいられなかった。
「……うぅぅ」
凛の口かららしくない声が出る。
額を机に押し当てて、膝は地団駄を踏むように揺れている。
「……はぁ」
だが一度言ってしまったものは仕方ない。
どう足掻こうと今更なのである。
凛は何とかそうやって自分を納得させると大きな溜息を吐きながら頭をあげた。
まず一番最初に目に入ってくるのは電源の入ったディスプレイ。
そこには凛自身が配信に使っている『四葉 鈴』のアカウントページが表示されていた。
アカウントページには自分のフォロワーが何人なのかなどが明記されていて、その数を見ただけでは『四葉 鈴』という配信者は十分に人気配信者の一人だと言っていいだろう。
だが凛は本当にそうだろうかと表情を暗くしていた。
今回、凛の配信は盛大に荒れた。
いや、亮から聞いた話によれば、荒れたというよりも荒らされたという方が正しいだろうか。
何でも今回の騒動に関しては『アンチグループ』という大規模な組織が暗躍していたらしい。
その状況を鑑みても、今自分をフォローしてくれているフォロワー全員が、本当に自分の、四葉 鈴の配信を楽しみにしてくれているのかと考えるとどうしてもそうは思えない。
フォローすることによって得られる利益といえば、そのフォローしている配信者が配信を始めたとき、その通知が来ることだ。
そうしたら自分のフォローしている配信者の配信を聞き逃すことがなくなる。
だが今回、その機能を利用しているアンチグループの輩たちが少なからずいるだろう。
凛はそう睨んでいる。
今自分のフォロワーの何人が、本当の意味でのフォロワーじゃないのだろう。
そう思うと、画面に表示されているフォロワーの数を見るのが変に辛くなった。
「……本当の意味での、フォロワー」
もしかしたらそんなものはほとんどいないのではないだろうか。
自分が若い女だから。
そんな理由で『四葉 凛』はたくさんの人にフォローされているんじゃないだろうか。
本当の意味でのフォロワーって、何だろう。
凛の頭の中ではその疑問で埋め尽くされていた。
「…………」
そんな中で一人のクラスメイトのことが凛の頭を過ぎった。
倉田 亮。
凛のクラスメイトであり、凛に告白してきた男だ。
そして『司波 凛』と『四葉 鈴』が同一人物であるということを知っている唯一の人間でもある。
凛は、亮に告白された時、一瞬の迷いもなくそれを断った。
というのも凛はその時初めて『倉田 亮』という男を認識したのだ。
そんな男と付き合うほど自分は軽い女だとは思っていなかったし、凛は配信の邪魔になるようなことをしたくはなかった。
凛は毎日配信をしていたし、誰かと付き合ったりなんかしたらその日常が壊れてしまう。
だからこそ凛は亮を振るときに迷いがなかったのである。
それなのに自分の秘密を誰かに話すでもなく、凄い、応援しているとも言われた。
そして毎日自分の配信の改善点を一個ずつ見つけてきてくれて、それはどれも的確なアドバイスで、その証拠に四葉の配信は徐々に閲覧者数も増えていっていたのだ。
もしかしたら凛の気づかないところで、亮というクラスメイトの存在も大きくなっていたのかもしれない。
だから普段は誰にも見せないような自分の弱さを見せてしまった。
一緒にいて欲しいと思った。
守ってほしいとさえ、思えたのだ。
凛は自分がクラスの中でどういう立場にいるのかを自覚している。
そして亮が普段クラスの中でどういう立場にいるのかも知っている。
ルックスだけ見ても、亮は格好いいと称されるほどではない。
少し長すぎる前髪に、特徴的すぎない容姿。
クラスの女子たちが亮のことを噂しているところを凛は聞いたことがなかった。
「吊り橋効果、だったのかな……?」
凛は自分の胸にそっと手を置く。
何もないように装っていたが、実は亮が部屋に入ってきた時から自分の胸は鳴りっぱなしだった。
それが男と部屋で二人きりという状況に緊張しているのか、それとも――。
「……っ」
そこまで考えて凛は考えるのを辞めた。
それに別に自分が誰を好きだろうと関係ない。
だって少なくとも今自分は、配信に集中しているのだから。
それに、亮が自分の配信の改善点を見つけてくれる間は、安心できる。
自分のことを好きだから、あんなに力になってくれる。
いつまで?
亮は、ずっと、と言ってくれた。
ずっと好きでいてくれる。
それならもし自分の気持ちが本当なら、その時でも、遅くはないだろう。
そう考えると、あいつだけは自分の本当のフォロワーなのかもしれない。
凛は、もう一度、静かに胸に手を添えた。




