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11 アンチグループ

ブクマ評価感謝です。

日間ジャンル別2位ありがとうございます!

今回話が長くなりそうだったので、途中でぶった切っています。

続きは本日18時に更新予定です。


 司波さんの部屋は、年頃の女の子の部屋というには少しばかり暗すぎるような気がした。

 部屋の中にあるものといったらベッド、そして机くらいだろうか。

 そして机の上にも、今時の中高生女子が持っているようなアクセサリなどは一切見受けられず、パソコンとマイクなどといった配信のための機材が置かれていた。


「…………」


 そして司波さんはというと、部屋の中に入ってきた僕に目もくれることなく椅子にぽつんと座ったままだ。

 顔は俯き、その表情は窺い知れない。

 しかし明るいものなどではないことは空気を察しただけでも明らかだった。


「司波さん」


「…………」


 僕の呼びかけに対して司波さんは何の反応も見せない。

 ただじっと椅子に座り、どこか下の方に視線を向けている。


「見てたよ、昨日の」


「っ……」


 その言葉だけで僕が一体何を言っているのか分かったのだろう。

 一瞬だけ司波さんの肩が小さく揺れたのが分かった。


「荒れてたね、物凄く」


 司波さんは再び黙り込んで、頷くことはない。

 でもそれが無言の肯定であることを僕は知っていた。

 違わないから否定できない。

 その通りだから首を横に触れない。



「そのことで司波さんに話さなくちゃいけないことがあるんだ。だから東雲さんからプリントを預かったなんていうのはただの建前で、ここからが本題」


「…………?」


 司波さんは俯きながらもどうやら僕の言葉に興味を持ってくれたらしい。

 最初よりも幾分か顔が上がってきて、耳がこちらに傾けられているのが分かる。 

 そんな司波さんに、僕は、僕が今司波さんに伝えなくちゃいけないことを話すことにした。


「司波さん、あの時の批判コメントは『アンチグループ』という数百人規模の組織によって仕組まれていたものだったんだ」


「……アンチ、グループ?」


「そう。アンチグループ」


 アンチグループ。

 それはその名の通り、ただ何かに反発するためだけの組織だ。

 どういった理由で標的が選ばれているのかなどは全く知らないが、ただ選ばれやすい標的を考えるなら――叩けば折れてしまいそうなもの、なのだろう。


 そして今回それに司波さん――四葉さんが選ばれてしまった。

 一度目をつけられたら組織が飽きるまで何度でもアンチが沸く。

 これといった解決策はなく、中途半端に解決しようものなら一層のアンチが自分の下へ降りかかってくるだろう。


「四葉さん。配信はしばらく休んだほうがいいんじゃないかな」


 恐らく、いやほぼ間違いなく、それが一番確実な解決策で妥協案だ。

 アンチグループのほとぼりが冷めるまで身を潜め、また時期を見て戻ってくればいい。

 そうしたらまたこれまでのような配信をすればいいのだ。


 リスナーだってちゃんと説明すれば分かってくれるだろう。

 四葉さんのリスナーはきっとそういう人たちだ。


「どうかな」


 僕は俯いたままで顔をあげない司波さんに声をかける。

 きっとこれまでの僕の話は全て聞き逃すことなく聞いてくれていたはずだ。

 その中で司波さんはどういう選択をするのだろう。


「…………配信は、休まない」


 長い沈黙の末、司波さんの口から搾り取られるように告げられたのは、僕の提案を却下するというものだった。


「例え、アンチグループってのが来ても、別に何でもない」


「……そっか」


 嘘だ。

 その言葉はただの一瞬の強がりでしかない。


「……じゃあなんで今日は学校を休んだの?」


「っ」


「東雲さんにも連絡しなかったんだよね?」


「…………」


「ねえ、司波さん。どうして?」


 嘘を吐く司波さんを責めているわけじゃない。

 ただ、嘘を吐いて欲しくないんだ。

 僕に対してではなく、自分自身に対して。


 そもそも司波さんはまだ僕と同じ高校一年生でましてや女の子だ。

 そんな司波さんが不特定多数の誰かから、自分に対する暴言や非難が殺到する状況に置かれてみろ。

 それを何も思わないなんてことあり得るはずがない。


「司波さん、本当は何でもないなんてこと、ないんだよね?」


「…………」


 俯くままの司波さんの手がぎゅっと握り締められ、膝の上で震えている。

 窓から入り込んでいた夕陽も次第に沈み始めたのか、暗さを増し始めていた。


「…………それでも」


 そんな中で司波さんの口がゆっくりと開かれる。

 僕が部屋に入ってから一度もあげられることの無かったその顔も、ゆっくりとあげられていった。

 そしてすぐに僕と司波さんの視線が重なり合い、お互いに離せなくなる。


「それでも私は、配信を休むのだけは、絶対に嫌だ」


 ゆっくり、一言ずつ自分の意思を明確に伝えてくる司波さん。

 その目を見て「あぁこれは無理だな」と察してしまう司波さんの表情に、思わず見惚れてしまいそうになるが、僕は確かめなきゃいけないことを司波さんに聞いてみた。


「どうしてそこまで配信をすることにこだわるの?」


 別に配信をやめろと言っているわけじゃない。

 ただ少し、アンチグループのほとぼりが冷めるまでいい。

 それまでの少しの間、配信を休んだらどうかと僕は言っているのだ。

 それなのにどうしてそこまで頑なに配信を続けようとしているのだろうか。

 もしかして何か休めない理由でもあるんだろうか。


「……あんた、私の配信ノートの中身、見たことあるよね」


「うん。最初に一回だけだけどね」


 ノートを見るだけだったら他にも何度も見たことがある。

 司波さんは僕との放課後の時間、改善点を教えるたびにそのノートへ書き込んでいくのだ。

 どうやら後からでも見直せるようにちゃんとメモしているらしい。

 それがどうしたのだろうか。


「その中でさ……『憧れの人に追いつく』っていうの、あったでしょ?」


「……あったね」


 僕が告白して振られた司波さんに憧れられるなんて羨ましい奴だと思ったのは今でも覚えている。

 わざわざそんなこと言わないけど。


「その憧れてる人っていうのが、実は私と同じ配信者なんだ」


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