とある転生魔族の宿屋での朝
なんとなくもう一話
朝がやってきました。
清々しい朝です。
昨日の夜は、リリーが上司である俺はベッドに寝るべきだと言い続けるので、不本意ながら俺がベッド、リリーがソファーと言うことになった――筈だったのに。
「あ、あのぉ……なぜにリリーさんはベッドに?」
今だスヤスヤと眠っているリリーは答えるはずも無く、俺は顔を引きつっていた。
確かに昨日リリーはソファーで寝ていたよね!?
ああ、俺は見ていたぞ! リリーがソファーで寝ていたところを。
さすがに寒そうだったから布団と毛布を渡したことも覚えている。
なのに、なぜ俺は布団と毛布とリリーを掛けている!?
「んん~むにゃむや」
うおおお、ちょ、リリーさん無意識でも俺を抱き枕にするのはやめてくれませんかね。
って、や、やめてぇえ。上半身に抱きつくならまだしも下半身に抱きつくのはやめてぇえ! 色々とヤバイからぁあ!
なんとか興奮を抑えて、冷静になれ俺。
「スーハー、スーハー」
深呼吸をして、冷静になる。俺がこんなに葛藤をしているのにリリーはどこ吹く風でぐっすりと寝ている。
俺はクスっと微笑んで抱きついているリリーの頭をなでる。
「んふふ……むにゃ~」
優しく撫でるとさっきよりも機嫌がよさそうに寝息を立てる。
うぉお! 可愛すぎだろ!? なにこの子!? お兄さんきゅんきゅんしちゃうよ!
取り敢えず、リリーが起きるまで頭を撫で続けた。
「もう! なんで起こしてくれないんですか! むうー」
ようやくお目覚めになったリリーはむくれた表情で言う。
お! かわいいなあ。よしよし撫で撫で。
「えへへ――って、そうじゃありません!」
「そういえばなんでリリーはベッドに?」
「ふぇ! ……え、えとぉ、ね、寝ぼけていたのかもしれませんねぇアハハハ」
「……まあ、そういうことにしておいてやるけど」
怪しさマックスのリリー、これ以上追求していてもはぐらかされるだけだろうからこの話は終了させた。
「それはそうと、今日こそは町に行くか」
「そうですね。このままこの村にいてもいいですけど町の方が人が多いので調査にはもってこいです」
仕事熱心だねえ。お兄さん眩しいよ。
準備を終えると、フロントの隣にある食堂で朝食をとることにした。
が、なにか周り居る男女が皆んなラブラブなのですが……
もう周りがピンク色だらけ。なんかハートが目に見える、なぜだ! 異世界ではラブラブだとハートが二人の間で永遠に出続けるのか!?
「な、なあリリー、周りの人たちの様子が何か変じゃない?」
「さ、さあ……別に、普通じゃないですか? いえ、普通ですよ、普通!」
「……なぜテンパっている?」
「べ、別にテンパっていませんよ? むしろ超冷静です!?」
「いや、これ昨日あったような気がする。デジャブ」
にしても本当にどうしたんだろうか。
確かに夜中両隣でギシギシ言っていたけど、両方とも一人で借りていたしなあ。
リリーは冷や汗ダラダラ。どうしたのか、本当に不思議だ。
「まあ、朝食を食べたらここにはもう用がないから別にいいんだけど」
「そ、そうですね! ここから急いででもしょう!」
な、なんでそんなに焦っているんだ?
まあいいけど。
それから朝食を食べて、部屋の鍵を返して宿を出た。
お姉さんは昨日みたいに真っ赤になりながら周りのカップルをチラチラと見ていた。
うん、初々しいのお。もうお姉さんもたないんじゃない? 爆発しそうだよ。
にしてもリリーの様子が変だ。
冷や汗ダラダラ、目がキョロキョロと泳ぎ、俺が声をかける度に「ひゃうん!」と声を上げる。……リリーさんその声はエロいのであまり出さないでくださいね。
そんなこんなで俺たちは町に向けて村を出た。