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とある転生魔族の宿取り

「あ、あにょ!」

「――? はいどうかなさいましたか?」


 久しぶりの人との対話に、俺は声を裏返す。

 やっべぇー、超恥ずかしい! やだ、お顔真っ赤じゃない!? もーう、お願いだから見ないでぇええ!!

 心の中の叫びが聞こえるわけもなく目の前に居るショーカットの茶髪の女性はキョトンとしている。


 今俺たちは、今日の宿を確保するために宿屋を回っている最中だった。

 と、言ってもこの宿が最初なのだが。


「はあ、やれやれ。これだから引きこもりは……私がやりましょうか?」


 俺の後ろに立っているリリーが俺だけに聞こえるように呟く。

 ちょっとリリーさん、あなた最近口が悪くありませんか!? あなた俺の部下だよね! そうだよね!

 とはいえ否定できないのが痛いところ、ここは素直にリリーに任せよう。


「あ、ああ頼む」

「はいはーい」


 俺とリリーは立ち位置を交代し、俺がリリーの後ろに立つ形となった。

 この交代の意味が分からず受付のお姉さんは首をかしげる。


「えっとー、今日ここに泊まりたいんですけど。空いている部屋とかありますか?」

「ええ、ありますよ。そうですねえ、丁度二部屋ありますね」


 お姉さんは引き出しから名簿表を取り出し、確認した。

 なるほど、二部屋あるのか。それは良かった。


「いえ、一部屋でお願いします」

「「はぁあ!?」」

「――?」


 俺とお姉さんが声をそろえてリリーの発言に反応した。

 その反応をリリーは首をかしげる。

 おいおい、リリーさんや。それはいくらなんでもダメでしょうが! まあ、確かに魔王城では同じ部屋だったけどさ、でもあれは俺の部屋の広さが半端なかったからだよ!?


「ひ、一部屋でよろしいんですか?」

「ええ、お金が少ないもので」

「さ、さようですか。分かりました」


 ああ、なんだ金のせいか……ってなんで俺はがっかりしているんだ。

 妹だぞ!? そんな子に手を出すとかありえないだろ俺!


「あの隊長……?」

「な、なんだリリー君!」

「そ、そんなにテンパらなくても……」

「ぜ、全然テンパってないし! むしろ超冷静だし!?」

「今の隊長の状態ははテンパっているって言うんですけど……まあ、いいけど」


 いいのかよ! まあ、俺もいいけどさ。


「それでなに?」

「ああ、なんで相部屋にしたら驚かれたのか不思議に思いまして。別に旅人が相部屋でも問題ないと思うんですけど」


 いやいや、俺は異世界の貞操観念についてはよく知らないけど、男女が同じ部屋って結構不味いことだと思うよ?

 まあ、もともと手を出すつもりは無いけど。

 てか、この子本当に淫魔なの? こんなことにも気づかない淫魔なんてもう淫魔じゃないよね! ただの天然だよね! いや、俺にとっては妹だがな!


「まあ、これから学んでいこうか」

「――? はあ、分かりました」


「お待たせしました。これが部屋のカギになります」

「はいはい」

「では、三千トルになります、……はい、丁度いただきました。ごゆっくり」


 顔を真っ赤にしながらも業務をこなすお姉さん……素敵!

 にしても、うぶだなあ。

 そんなことを思いながら、リリーが先導する部屋に向かおうとすると、うぶな受付のお姉さんに呼び止められた。


「ちょっとすみません」

「――? はい?」

「くれぐれも、間違いは犯さないでくださいね?」


 リリーには聞こえない声で耳打ちする。

 もう、お姉さん顔真っ赤。りんごとかのレベルじゃないよ。

 ほんと、素敵!


「大丈夫ですよ、そんな事は起きませんから」

「ほ、本当ですか?」

「本当です」

「そ、そうですか……それはそれで残念ですね」

「――?」


 お姉さんの声が小さすぎてなんて言ったのか聞き取れなかった。


「い、いえ、なんでも!」

「はあ、では俺はこれで」

「え、ええ。ではごゆっくり」


 お姉さんに軽く会釈してリリーの後を追う。

 さっきまで何を話していたのかを聞かれたが何となくはぐらかしておいた。

 いや、別に我がいとおしきリリーが本物の淫魔になったら俺が堕とされるとか危険に思ったからとかそんなんじゃない!


 とまあ、そんな感じでやっと休めるわけだ。

 にしても、リリーはなんでお金とか持っているのだろうか。そこらへんもおいおいと追求していこう。


 あれ? そういえばさっきまで俺お姉さんと普通に会話できてなかった?

 よっしゃー! これで引きこもりの枷が一つ外れたぜ!

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