とある引きこもりの一日 その2
「ねえ、なんで俺は外に出ちゃダメなんだよお」
場所は変わらず、中盤フロア。相も変わらず何もない部屋だ。
ある、いや居るとすれば俺とリリーだけだ。
俺は床でうつ伏せに、リリーは箒で掃除をしている。
そんな場所で俺は一人嘆いていた。
「別に外にでもいいじゃないですか? 外に出た場合人を襲わないといけませんが」
「だからそれが嫌なんだよぉお」
「隊長がなぜそこまで頑なに人を襲いたがらないのか不思議です」
「ああー、まあ、あれだよあれ、ほらわかるでしょアレ」
「全くわかりませんけど?」
ですよねー、俺もアレだけじゃあ、は? ってなるもん。
でも、元は人間だっただなんて言えないしね。
「まあ、人間って俺と同じような見た目しているから襲いづらいんだよ」
「ああ、それは何となく私も同感ですね。リリーも隊長と同じ様に人間と見た目同じですから」
「っでっしょー、それだからなんだよ! 特に理由とかはないけど、強いて言うならそれかな! な!」
「……なんでそんなに必死に言っているのかは分かりませんが納得しました」
ジト目をしたあと、納得したようで再び掃除を始める。
いや、マジでリリーはいいお嫁さんになれるよ。うん、お兄さんが保証する。ただしリリーに見合う人でないと結婚なんてさせないけどな。
「っと、隊長そろそろ勇者御一行が来るんじゃないんですか?」
「ん? ああ、もうそんな時間か。よっこらせっと」
立ち上がり、もう時期この部屋に来る勇者パーティーを迎えるべく準備運動をする。
まあ、(ナイトメアー)で終わりなんだけどね。
十分後、遂に勇者パーティーがやってきた。
「また来てやったぞ! 今度こそ負けない!」
部屋に入るなり勇者はそう言う。
昨日も同じようなことを言わなかった? まあ、いいけどさ。
「フハッハッハ! よくぞきた勇者よ。こうして自己紹介するのは何度目になるか。まあいい、我は魔王様の幹部バラキェール様の率いるバキューム騎士団第四番隊隊長ヨゾラである! また性懲りも無く現れたものだ!」
俺は決めポーズを取りながら勇者パーティーに言い放つ。
これはお決まりなのだ。
ってか、相変わらずのイケメンだなおい。なんか勇者にイケメンって、こうして考えてみるとむかつくな。
短髪の茶髪で、爽やかスマイルが似合いそうなイケメンぶり。うん、殴りたい。幸い俺は超最強な回復魔法があるから死ななければ完治する。よし、殴ろう、すぐ殴ろう、今すぐ殴ろう。
と、思った瞬間に俺のスーパーウルトラーパンチが勇者の頬を殴っていた。
「ふごおおおおお」
勇者は勢い良く回転し、鼻血が綺麗な螺旋を描く。それはまさに芸術。いや、ゲイ術じゃないぞ。芸術だ。
兎に角俺と勇者の仲間は回転する勇者に見とれていた。
「あっちゃー、やりすぎちゃった。……テヘペロ☆」
てなわけで、(ナイトメアー)を発動して今日の戯れは終わりにした。
勇者の顔はちょっと無惨なことになっていたから、回復魔法をかけておいた。いや、マジでこのままだったら可哀想な程にひどい顔だった。なに、ブルドックみたいな感じ、犬ならまだしも人であの顔は可哀想だ。だから元に戻しておいた。同情というより反省の意を込めて。
いや、もう本当に申し訳なかったと思うよ。
「おーい、リリーさんやーいこれよろしくー」
「はいはーい、ってこれも本格的に生活リズムの一部になり始めてますね」
「おい言うなよ! それ寝ている勇者達が聞いたら泣くぞ。カンスト勇者が今だ中盤で行き詰まっているって俺だったら引き隠るな」
「いや、今も引き隠っているでしょうが」
それを言われちゃあ言い返せないぜ。
「まあ、兎も角これよろしくねー」
「はあ、はいはい、では行ってきます」
「おうお願いなー」