転生魔族の一言「文字が読めない!」
今日こそギルドにてクエストを受けるつもり――だったが、俺はある問題点を思い出した。
「文字が読めない!」
そう、俺たちは文字が読めないんだった。
どうしよう、ねえどうしたらいい!
このままではダメなのは分かっている。このまま何もしないでいたら金はなくなり宿から追い出され、最後には魔王城に戻らないといけなくなる。
そ、それは何としても回避しなきゃならん!
折角手に入れた自由なのだ。死守する! 死んだら元も子もないけどね。
「という訳で、俺たちは今図書館に来ている」
「……はあ、という訳と言われましても私何も聞かされてませんけど?」
「まあまあ、つまりここで文字を覚えようじゃないか大作戦っと言う訳さ!」
「な、なるほど」
おっ、この感じは俺のことを感心しているな。
よしよし、お兄ちゃんに任せんしゃい。
「んじゃ、行くか」
「はい!」
図書館のには入ってから直ぐに本棚があった。
無防備過ぎない? 本取られても知らないよ?
外から見た感じ四階建てだった気がするから希望の品はあるかな。
入って奥にあるカウンターへ向かう。
カウンターに座っている男性に話しかける。
「すみません。文字を覚えるのに適している本とかありますか?」
「ふわぁー、ん? 文字を覚える?」
こ、こいつ、下向いていると思ったら寝ていやがった。
丁寧に涎れまで垂らしているし……
「はい、なにぶん田舎者でして……」
「へえ、おめえさんみたいな綺麗な手してんなら何処かのボンボンだと思ったよ」
「――! んなわけないじゃないですかぁ、嫌だなもうあははは」
何か凄い奴に出会った気がするのは気のせいなのか?
目の付け所がいいというかなんというか、俺の関わるなセンサーがビンビン鳴っている。
「んで、文字覚えるんだったらあそこらへんをおすすめするぜ。あそこあたりだったら誰もが知る昔話などの絵本が沢山あっからそこらへんがいいんじゃねか? 絵本ならあんまし難しい言い回しとかないから基礎は覚えれると思うぞ。知らんが」
知らんのかよ。
とは言っても、ちゃんと考えて答えている感じだし。
「ありがとうございます」
「おう、仕事だしな。ふわぁ、次からはほかの人に聞けよー」
いやだな、お前を寝かせる訳がないであろう。
俺は何か聞くときは必ずこの男に聞くことを心に誓った。
「にしても、本がいっぱいありますねえ」
「そうだな。魔界ではこういう文化があまり普及していなかったっていうのもあるが」
「私文字とか覚えられるでしょうか?」
「うーん、まあ一緒に地道にでも頑張っていこうか」
そう言って俺はリリーの頭をなでる。
ああー、この感じ久しぶりだなあ。この撫でている時は本当に安らぐなあ。
「えへへ、頑張ります」
そして俺たちは絵本漁りから初めて行った。
確かあのおっちゃん曰く誰もが知ってるって言ってたけど俺やリリーは知らないんだよなあ。だって、魔族だし。
するとある一冊の本が俺の目に止まる。
表紙には、とある巨大な果実と、その中から出てきている元気な子供。その光景に驚いて腰を抜かしているお祖父さんとお祖母さん。
何度も読んでいた絵本。
「桃太郎じゃねえか」
またしても異次元での再開、スマホに祭りにこの絵本、もう他の転生者がいるのは確実じゃないか?
俺は本棚から桃太郎(仮)を一枚めくる。
そこにはお祖父さんが芝刈りにお祖母さんが川へ洗濯をしにいく絵が描かれていた。
「懐かしいなあ……」
しみじみと干渉に浸りながらどんどんページをめくっていく。
川へ洗濯をしているところに巨大な果実(ここでは桃ではないらしい)がどんぶらこーどんぶらこーと流れてきた。
うんうん、ここからお祖父さんとお祖母さんとの運命的な出会いがあるんだね。
そう思いながらページをめくる。
お祖母さんは洗濯に夢中で果実に気づかず、果実はそのままお祖母さんをすぎてしまった。
ん、なんか話違わないか?
そう思いながらもまたページをめくる。
果実はそのまま鬼ヶ島(魔界)へと流れ、それを魔族が拾いました。
ん? ん? もうこれ桃太郎じゃないよね?
もう、疲れたから最終結末まで言うと。
果実を割った魔族は、果実から出てきた勇者にバンされ、そのまま魔王もバンされましためでたしめでたし。ってやつだった。
「無理やりすぎるだろ!!」
絵本を床に向かって思いっ切りぶつける。
「おいおい、お客さんよお。絵本は読むものだが叩きつけるもんじゃないぜ? それに館内は私語厳禁ですよ」
さっきのおっちゃんが眠たげに注意する。
私語現金……だと。ハッ、いかんいかんお金に困りすぎて頭が。
「す、すみません」
「んで、少しは文字覚えたかい?」
「い、いえ、慣れ親しんでいた筈の物語が途中から全然違う物語でして……」
「ん? その手にもっている奴は『果実勇者の冒険』か?」
「そ、そんな名前なんですか?」
「ああ、あれだろ。勇者が果実に乗って魔族のところまで行くって話だろ?」
「へ、へえ……」
表紙詐欺じゃねえか!!
再び地面に叩きつけそうになるも、必死に抑える。
あっ、そうだリリーは何処にいったんだろうか。
「たいちょ-! 見てください、上の階で絵本を探してますって言ったらこんなに用意してくれました」
「ほほう、兄ちゃんはそういった趣味があるのか。ふむふむ、これはこれは」
そう言っておっちゃんはリリーのもつ絵本を見る。
どういう意味なんだよ。
と、俺もリリーの持つ本を見る。
「――! それはだめだ! 今すぐに返してきなさい!」
リリーの持つその絵本は所謂大人な絵本だった。
流石淫魔、意図せずともそういった方向にもっていけるなんて才能だよそれ。
「は、はあ、隊長がそう言うなら……このおじさんが隊長が喜んでくれるって言っていたのですが……」
リリーはおっちゃんの方を見る。
「えっ、えっとー、いやあ余りにも暇すぎてついな。アハハハ」
「一生眠ってろ!」
ほんと、ただものじゃなかったよ。
いい度胸してる。無垢な女の子に何渡してんのさ。
てか、そんな本が置いてあるのかよ!
……今度一人で来るとするか。
総合日間ランキングに入りました。
ありがとうございます!