シンタロウ・オガタの場合 05
深く刻まれた皺も今はキュートだ。
「ま、その日本を飛び出して異国を放浪してる俺が偉そうに言えないけどね。少なくとも便座が温かいのは悪くない」
「…?便座が温かい?…汚いわね」
「なんで漏らすことになってんだよ!違う違うそうじゃなくて、機械制御で温めてるんだよ!」
「…は?便座って座る便座よね?」
「それ以外の便座がどこにある」
「何のためにそんなことするの?」
「そりゃお前…座った時に冷たいと嫌じゃんか」
ひとしきり爆笑するマダム。
「…そんなにおかしいかな」
「うん、おかしい」
第四節
二人はその他にも沢山の話をした。男の話が上手いのか、マダムが聞き上手なのか話は弾んだ。
「…もう結構遅いし、他の客は全員帰ったみたいだけど…いいのか?」
「いいわよ。あたしが店主なんだから」
「そうなんだろうな」
「でももう看板ね。楽しかったわ。ありがと」
「そこで折り入って相談が」
「やっぱりサケが欲しかった?」
「いやいや」
首を振る男。
「…単刀直入に言うが…雇ってくれないかな」
「…?」
「旅を続けるうちに色々あってね。もうすっからかんなんだ」
「あらあら」
「一応腕っぷしには自信がある。料理は出来ねえが用心棒にどうだい?」
目を伏せるマダム。
「…ありがたい話だけど…」
「ギャラはいらない。三食食えれば現金は要求しないから。それがギャラだよ。どう?」