シンタロウ・オガタの場合 04
第三節
「うらーあ!」
訳の分からないことをわめきながらレッドネックと思しき白人男が暴れている。
「ランディ!やめて!店を壊さないで!」
マダムが悲しげに叫ぶ。
男は立ち上がると瞬時にランディと呼ばれたデブの前に移動した。
次の瞬間、ランディは見事に空中で一回転していた。
ドシン!という重低音が響き渡り、すぐに静かになる。
男はビールの残りを煽っている。
「素敵だったわ」
「そりゃどうも」
騒動の後も笑顔で飲み続けている男。
「あれがカラテね?あなたカラテマンだったんだ」
「…一応空手もかじったけど、あれは柔道。ヤワラの技だよ。分かる?」
「分からない。でもゼンってことよね」
余り分かっている感じではない。
「でも、救急車とか呼ばなくていいの?一応怪我はさせないようにしたつもりだけど」
「平気よ。いつもはもっとひどく殴られるまで暴れるのをやめなかったりするんだから」
「忠告はしたぜ?あの体重だと投げられた拍子に骨にヒビが入るくらいはしてるかも」
「大丈夫だって。いつものことなんだから。それにこんなとこ、救急車呼んでも来るのに二日は掛かるわ。きっと来ないでしょうし。呼ぶお金も無いし」
「…そっか…アメリカって救急車呼ぶにもお金取るんだっけ」
「日本は救急車タダなの?」
「治療には自己負担があるけどね。救急車そのものに払う意識は全く無いなあ」
「でも、みんなアリみたいに働いていて自由が無いんでしょ?」
「…見ようによってはそうかもね」
「自分の意思が無くて集団で常に動くんでしょ?そして過労死と自殺が多い」
「おいおい、そりゃ一体どこ情報だよ。ニューヨークタイムスか?」
一度言ってみたかった嫌味をアメリカ人に言ってみた。
「違うの?」
「少なくとも俺だって日本人だぜ?そんな機械みたいに見えるかい?」
「…見えない」
笑顔になるマダム。