シンタロウ・オガタの場合 03
「別に。人ごみの多いところは嫌いなんだ」
ビールは中途半端にぬるかった。
「あたし行ったことないの」
「地元民なのに?」
ぷっ!と噴き出すマダム。
「地元って、同じ国とかそういう意味?」
「…そのつもりだが」
「あたしたちにとっちゃニューヨークなんて外国も同じよ」
「…とりあえずこれで食えるつまみが欲しい」
男はポケットの中を全部ぶちまけた。
「先に五ドルは払っとく」
「これで全財産ってことはないわよね?」
「実はそう」
「大丈夫なの?」
「だから先に聞いた。前払いなら食い逃げも無い。そう思わない?」
にこっとする男。
一瞬遅れて笑顔を返すマダム。
「面白い人ね」
「よくそう言われる」
「日本人なんてサタデー・ナイト・ライブでサムライ見たことがあるだけだけど…」
「もしかしてカナダ人の金髪男が寿司屋でハラキリしながら暴れる先週の奴かい?」
「いえ。一か月前だけど…まあ、いつ見ても似たようなもんよね」
少し見つめ合った後爆笑する二人。
「…本当は全然足らないけど、全財産ならサービスしとくわ」
「ありがたいね」
すると奥の方から小さな更に乗った「柿の種」とピーナッツの盛り合わせが出てきた。
「はい、どうぞ」
「こりゃ最高だ。好物でね」
日本なら百円ショップでも袋単位で買える代物だけどな…と愚痴るのは脳内だけにしておく。
同時に背後で炸裂音がした。