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白鳥央士の場合、その後 02


第五節


 正に「早変わり」だった。

 遅れ気味に部屋に飛び込んできた「白鳥」は周囲に寄ってたかって衣装をはぎ取られ、あっという間に「黒鳥」に生まれ変わっていた。

 器用にアクセサリーやメイクの乱れを直し、鏡に見せて異常を確認してくる。


「…っ!!」


 そこには白銀で清楚可憐なバレリーナではなく、漆黒で妖艶にしてセクシーなバレリーナがいた。


 その後も身体が勝手に踊りまくり、王子の手に抱かれたり、背中をのけ反らせたり、一人っきりで舞台をうろうろして倒れ込んだりと色々やらされた。

 うんざりしたのがアンコールで、どういう流れ何だか全く分からないがまた白バレリーナに戻された武林は、とっくに終わった舞台に何度も出てはお辞儀をして引っ込むことを何度も何度も強要させられた。


 本物のバレリーナならばさぞ誇らしくもあるんだろうが、こちとら中身はバンカラ高校生でさっきまで路上のケンカをやっていた硬派野郎なのだ。

 それが可憐な衣装に身を包んで女として舞い踊って拍手喝さいを浴びるなど頭がどうにかなりそうである。


 やっと終わった。

 周囲を背中を開けたり色々しながらではあるが、こてこての舞台衣装…バレリーナのチュチュ…の女どもの集団がダルそうにぞろぞろ歩いている光景は新鮮なんてものじゃない。


「よっ!お疲れ!」


 ムカつく爽やか笑顔の白鳥である。



第六節


 結論から言うと武林はまだ解放されなかった。

 なんと軽くメイク直しをさせられ、舞台衣装のままどっかの何とかいうインタビューが敢行され、鼻の下を伸ばした脂ぎった中年…いや壮年のおっさんたちが次々にやってきては握手を求めてくる。


 どうやら、今日舞台に穴をあけたバレリーナだと思っているらしい。

 なるほど確かにパンフレットにだってプログラムにだって印刷してあるわけで、そのバレリーナがいないとお客は納得しないだろう。

 だからその本人に「した」のだ。白鳥は。


 やっと取材陣も、スポンサーとか名乗るおっさんたちも帰った。

 そこに残されたのはへとへとに疲れ果て、遂に汗臭くなってきた細身のあちこち乱れてきた舞台衣装で半裸同然の女(中身は男の子)だった。


「…おい、もういいだろ」


「悪い。もう少し頼む」


「す、素敵でした!」

 目を輝かせてあの女が目の前にいた。

「女の方だったんですね!」

「…男だよ。悪いけどな」

 もう説明するのも面倒だった。

「え…?じゃあそっちの方ですか?」

 この女、見た目はそこそこだが頭は弱いんだろうか。

「…今までどこにいた?」

 すると白鳥が言った。

「無事に保護すると言ったろ?関係者特別席で観覧してもらってた」

「…」

 するとあれか。武林は思った。俺の可憐なバレリーナぶりを全部最初から最後まで堪能してくれたってわけか。

 もう疲れすぎてショックでも何でもない。

 すると、ポンと白鳥が剥き出しの肩に触った。

「…?お、おい!何だよこれは!」

 ぐんぐんと汗が引いていく。べっとりと汗でぬれた舞台衣装が乾燥して爽やかな石鹸みたいな香りを放ち始めた。メイクは空中に消えていき、さっぱりとした造形のいい女の顔があらわになる。

 キツくむすばれていた髪が解放されて背中まで掛かる。

 だが、同時に違う違和感が全身を襲い始めた。

 細い肩紐を隠すように舞台衣装が膨張を始め、薄いピンク色のセーターとなる。

 同時に細い肩紐は太く、機能性に溢れた…ブラジャーとなって武林の乳房を締め付けた。

「…っ!」

 真横に広がっていた白いスカートはふわりと重力に従い、ごく普通の生地となって膝下まで伸びていく。それは、普通のロングスカートだった。

 脚を覆っていたうっすらと肌色が透けるバレエタイツは消失し、つるつるすべすべの素脚となっていく。

 レオタードの様に身体を締め付けていたチュチュの本体部分も消滅し、パンティと、そしてスリップとなって武林の女体にまとわりついた。

「うわ…うわわわわわっ!」

 思わず立ち上がってしまう武林。

 そこには長い髪をなびかせたセーターにロングスカートのごくごく普通の普段着の女(中身は男の子)がいたのだった。


「テメエ!何しやがる!」


 ふと見ると白鳥はカメラを構えていた。


*武林 光 メタモル・ファイト戦績 一勝四敗二引き分け一無効試合 性転換回数七回

(三人同士の練習試合はカウントせず)


*白鳥央士 メタモル・ファイト戦績 0勝一敗二十三引き分け 性転換回数二回




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