シンタロウ・オガタの場合 02
第二節
「邪魔するよ」
荒野の一軒家…ではなく数件の商店が軒を連ねるこの辺りで一番の「繁華街」にたどり着く男。
「繁華街」というのも比較問題だ。
ニューヨークやロサンゼルスなら倉庫街でももっと賑わっているだろう。
砂漠よりは文明を感じられるという程度だ。
その中でもバーの看板を掲げる店に入った。
彼の貧相なイメージだと、バーといえば落ち着いた大人の雰囲気という風情なんだが、ここはイギリスのパブみたいな砕けた雰囲気だ。
テキサスの田舎に入ってから十人以上が同じ部屋の中にいる情景に久しぶりに出くわした。
周囲の人間が珍しい客に視線を集める。
…出来損ないのガンマンコスプレも同然だからな…。
無理に例えれば庶民の牛丼屋にサムライの格好した外人が入って来るみたいなもんだ。
「いらっしゃい」
「どうも」
落ち着いた白人のマダムが出迎えてくれる。
カウンターに座った。
ゆったりしたワンピースに長い髪。何とも時代錯誤だ。
目尻の皺と白髪の多さから考えて四十代中盤というところか。
「ビールある?」
「ええ」
手際よくビンの栓を抜いてついでくれる。
「五ドルね」
「…高くない?」
「この辺じゃ水の方がもっと高いわよ」
「もしかして日本人だからボッてるの?」
これらの会話は勿論英語である。念のため。
「あら日本人だったの。一応サケもあるけど」
「結構。地元のビールを飲むのが趣味でね」
「サケ」とは「お酒」全体を指す一般名詞ではなく「日本酒」という意味で英語に定着している日本語だ。「スシ」みたいなものだ。ちなみに発音は「サキ」に近い。
「…観光…じゃないわよね」
「まあ、気ままな旅だよ」
「ふーん。旅行ならニューヨークとかの方がいいわよ」
「もう行った」
ぐびりとビールを煽る。
「どうだった?」