盛田出人の場合 その1 03
第五節
「…それで?」
「驚かんのか」
「単なる偶然だ」
「しかし…」
「実に下らん。世の中にそんな迷信みたいなものがあってたまるかよ」
「じゃあ、UFOも幽霊も超能力も信じないんだな?」
「信じる訳が無い。あんなインチキ」
「俺はかなり信じる方だ」
「おいおい」
「そりゃオレ自身がスプーン曲げられたり、UFOを見た訳じゃない。しかし…あってもおかしくないだろ」
「…俺は相方の教育からやり直せってのか?」
「いや、必要ない。公務は公務だ。心配なら俺の経歴でも見てくれ」
「…信用しよう。仕事の上ではな」
「うん」
立ち上がる盛田。
握手を交わす二人。
「ところで初仕事だ。近すぎるから一切事情聴取は出来ん。推測だけで行う」
「それは失踪事件なんだよな?」
「ああ。さっきも言った科警研の職員が消えた。全く原因も何も分からず、痕跡も無くだ」
「ふん」
鼻で笑う巣狩。
「…何がおかしい」
「超常現象と言われてるモノの大半はそれだけで予断の塊だ」
「どういうことだよ」
「失踪事件は『さあ、失踪が起こりますよ!』と派手に予告されてから起こる訳じゃない。大抵はごく普通の日常生活の延長線上で起こるんだ」
「しかし…」
「原因不明の謎の失踪!と騒がれて十年経過したとある事件があってな」
「…それって別の話か?」
「そうさ。十年目に家の近所で人骨が発見されたそうだ」
「まさか」
「歯型の特定で失踪者と特定された」
「どういうことなんだ」
「別に。単に物凄く分かりにくい溝に足を滑らせて転んで落ちただけだったんだ」
「ホトケが腐るだろ」
「海の近い町でな。独特の潮風が通り過ぎる溝の中だったらしく、腐敗というよりは乾燥してミイラ化してたらしい。そういう例もあるんだ」
「探したよな」
「当然地域を挙げての大規模な捜索が行われた。警察だって万単位で動員された」
「何故見つからなかった」
第六節
「仏さんには気の毒なことなんだが、笑い話みたいなもんで、分担した班分けにおいて偶然この溝だけがどの班の捜索範囲にも含まれてなかったんだ」
「…馬鹿な」
「経過が入り組んでいるほど単純で馬鹿馬鹿しいものさ」
「無事解決か」
「一応そうだが、何しろ一切の痕跡を残さずに煙の様に消えた…形になってるからな。奇想天外な目撃談が多発した」
「目撃談?」
「曰く、謎の黒服集団に車に押し込められるのを見ただの、物凄いのになると、突如空中に出現した丸いゲートに吸い込まれるのを見た…なんてのまであったらしい」
「…そいつらって…」
「悪質なウソツキ連中…と言い切ってもいいんだが、都合のいい記憶の改ざんだな」
「…確かに」
「それにしても空中に出現したゲートたあケッサクだよ」
「それは流石に嘘だよな」
「嘘なんだろうが、『つくならもっとまともな嘘をつくだろう』ってんで逆に信憑性ありとされてたらしい」
「…」
「結局「きっとこれほど不可思議な事件には何かあるらしい」という過度な思い込みが「きっと何かあったはずだ」から「無ければならない」なんてことになってこの有様だ。まるでUFO目撃談だ」
「おいおい、世の中のUFO目撃談が全部ウソだってのかよ」
「少なくともその手の目撃談が出始めてから何十年も経ってるんだが、宇宙人とやらはまだちゃんと接触してくれないのかね」
「…」
「今回の失踪事件とやらも全部単なる偶然だよ。俺はそれを暴いてやる。だから引き受けた」
「そういうことか…」




