白鳥央士の場合 04
第十一節
確かに本気でメタモルファイター同士が殴り合えば多くの場合は互角だ。だが、片方が誰かを守りながら戦うということになれば不利に決まっている。
「…すまん。悪かった」
突然殊勝になる白鳥。
「態度をコロコロ変えやがってこのインチキ野郎が…」
ぎゅっと手を握り締める彼女。
目の前で展開していることが意味不明なのだろう。
「…ちょっと待て。話し合いの余地はあると言ったな?」
「協力してくれるのか?」
「こっちも条件を出す。飲めるなら考えてやる」
「それはファイトの条件か?それとも出来レースの条件か?」
「ふん…何かは知らんが、お前はオレに協力してもらいたいんだろうが。しかも大急ぎなんだろ?とりあえずこの場は協力してやる。その代り2つの条件を飲め」
「聞こう」
「一つは、何なのか知らんがお前の依頼が終わったら正々堂々と戦うこと。メタモル能力なしにだ」
「…そんなものお安い御用だ。もう一つは」
「彼女の身柄を守ってほしい」
「え…」
「お前、地元民だろ?オレはこのねーちゃんに付きっきりって訳にはいかん」
「彼女がどうした?」
「性質の悪いチンピラどもに付け狙われてる」
「何だそんなことか。任せろ」
「本当にいいのか?」
「ああ。こちとらメタモルファイターだ。彼女ひとり守る位はお茶の子さいさいだ」
「…もしもしばらくぶりに連絡して何かがあったりしたら…」
「その時はどうとでもするといい。こちらも男だ。約束は守る」
しばらく睨みあう両者。
「…その約束が確かに守られるという保証は?」
「ボクもメタモルファイターだ。本気で怒った同類がどこまでの事が出来るのかくらい分かる。そんなリスクは取らない」
やれやれ、と頭を振る武林。
「…そういう訳だ、逃亡はしなくてよさそうだぜ」
「でも…」
白鳥の声が割り込んできた。
「同意してくれ!時間が無い!」
第十二節
「いいぜ。勝負だ」
振り返って言う武林。
「解除条件は幕が全て終わるまでだ!」
「幕?」
返事も訊き切らない内にドン!と突き飛ばすかの様に触れてくる白鳥。
「おい馬鹿!こんなところで!」
「…!?」
また始まったケンカに状況が分からず目をぱちくりさせている女性。
「ぐあ…見るな…見るなあ!」
武林が胸を抱える。
「え…?」
無邪気な瞳が武林を撫でる。
いつもの感覚だった。
ガキガキと肩幅が狭くなって行く。筋肉質だった身体が皮下脂肪が厚く、柔らかい身体へと変貌していくのだ。
こ、硬派のこの俺が…また…女に…しかも、助けたばかりの女に…見られて…あああっ!
坊主狩りにも近いスポーツ刈りから生き物のようにムクムクと髪の毛が伸びていく。
髪質はあくまでも柔らかく、日々の手入れを欠かしていない深窓の令嬢の様な美しい黒髪だ。
「あ…ち、違う!違うんだこれは…っ!」
「あ…あ…」
両手を口の前に揃えて呆然としている女性。余りにも奇想天外な光景であるためだ。
「悪いが急ぐんだ」
ガニ股だった両脚がぐぐぐ…と内側に曲がって行く。
だが、いつもの様にふっくらと丸みを帯びた臀部…とはならなかった。細く引き締まった筋肉質である。
「テメエ…場所を考え…」
その声ももう高い女性の物となっている。
スリコギみたいにざらざらだったアゴ周辺は大理石みたいにつるつるとなり、ほっそりしていた。
その顔はすっかり小柄でかつ小ぶりな女性のものとなり、背中まである美しく長い黒髪も相俟って、ため息が出るほどの美貌である。…小汚い学ラン崩れに身を包んだ。
第十三節
「うわ…うわあああああっ!」
手で押さえても仕方が無いのだが、必死に押さえてしまう。それに逆らって豊かな乳房がムクムクと盛り上がって…は来なかった。
「…?」
いつもは溢れんばかりだったりするんだが…。
女体変化慣れするのも健全な男子高生としてはいかがなものかとは思うが、ともあれ「男の胸ではない」ことは分かるが、決して大振りなものではないそれが形成されたらしかった。
ま、女とて全員がおっぱい大きい訳じゃないからな。
豊かな乳房が無い以上、ただ単にほっそりしただけにも感じられる。
ともあれ、全身女になってしまったらしい。
「…女の子…だったんですか…?」
青い顔で後ずさり始める女性。
「い、いや違うんだよ…これはその…」
「美しい光景だが続けさせてもらう!」
「テメエ!同意したんだからせめて空気読めよ!」
「すまん!」
むぐぐ…とスニーカーが白く…いや、薄いピンク色に染まり、靴ひもが消滅してつるりとした表面へと変貌していく。
「これは…」
「普通に歩くにゃ不便だが、ガマンしてくれ」
どこからか出現した長い長いひもがくるぶしの下辺りから生えてくるとはらりと地面に広がった。
黒く薄汚れていた学ランのズボンが白く染まって行く。
腕が剥き出しになり、学ランの上着も生地が薄くなり、白く染まって行く。
「よ、よせ!よせええええ!」




