白鳥央士の場合 03
第八節
「…何だか知らんけど、達者でな」
「それまででいいんで、一緒にいてくれませんか?」
「よく分からんな。どうすればいいんだ?」
「…きっと彼らは逆恨みして逆襲に来ます」
「あんたをか?」
「私もですけど、…あなたもです」
考え込んでいる武林。
どうしても腕の試し合いにはならない。これじゃあメタモル能力なんっぞ無い方がよかったな…と思ってしまう。
「別にオレは構わんけど…」
それほど明晰という訳ではない武林の頭脳がそれでも回転し始めた。
要するに、彼女を無事に送り出せばいいってことで、それまで用心棒を買って出ればいいってことだ。
「…どこに行く?」
「四国に親戚がいます」
「…いきなり訪ねて行ってどうにかなるのか?」
「このままここにいれば殺されます」
大げさに感じられなくもないが、そうした小さな火種を放置した結果いじめ殺された例も盛んに報道されている。
「…オレはどうすればいいんだ?渋谷まで送ればいいのか?それとも横浜か」
第九節
「おお、助かった」
妙な声を掛けられた。
振り向くと、そこには細身のイケメンがいた。
「君、そうなんだろ?」
ブラウンの髪が印象的な掘りの深い顔立ちである。頭が相対的に小さい。
典型的なヤマト型体型の武林とではエルフとドワーフみたいだ。
「…わりいが今立てこんでてな。今度にしてくれ」
「あの…」
不安そうな女性を手で遮る武林。
「嬉しいね。間違いなさそうだ」
つかつか歩いてくる細身。
「寄るな!」
地の底から震えそうな野太い声だった。
流石に一歩歩みを止める細身。
「悪い、名乗るのが遅れた。ボクは白鳥央士だ」
「聞いてねえよ」
「メタモル・ファイトを申し込みたい」
頭を掻いている武林。
「間が悪いなハンサムさんよ。俺も対戦相手には飢えてたところなんだが今は駄目だ。明日…今夜にならねえか」
「残念だがならない。今すぐだ」
構えを取る細身。
武林は失笑が抑えきれない。何の構えにもなっていない。見よう見まね以下だ。
…とはいえ、メタモルファイターであるならばどうにかなってしまうのも事実である。
第十節
「どうしてそんなに急ぐ?」
「切迫した事情でな。人でがいるんだ」
「人手だぁ?メタモルファイターがいるってのかよ」
「ああ。いる」
女性は何の話か分からずにお互いの顔を交互に見ている。
「話が見えねえ。とにかく今はダメだ」
女性の手を取って歩き出そうとするが、目の前に立ちはだかる白鳥。
「あんだゴルァ?やんのか」
「ああ。やるともさ」
「メタモルファイターに無理やり言うことをきかそうってのか?」
「ファイトの結果次第なら可能だろ?」
「…」
武林はシステムのマニアではないので、その辺りの詳しいことは分からない。ただ、相手の同意も取らずに一方的に支配下に置こうという狙いだけはありありと分かる。
実に穏やかでない話だ。
「何を手伝わせようってんだ?別にファイトする必要はねえだろうが」
「手伝ってくれるんならお手盛りの出来レースで構わない。どうかな」
「見返りは」
「君の要求が分からないが、少なくとも報酬は既定の額を払うよ」
よく分からない話だ。
「…悪いが本当に時間が無い」
一足飛びに飛び込んでくるとパンチを放ってきた。
慌てて避けようとするが、一瞬たじろいでブロックした。
避けなければ女に当たっている。
「テメエ!何考えてやがる!」
「背に腹は代えられん!怪我をする訳にはいかないんでこれ以上同意せずに戦えん!このままだとその可愛い彼女が怪我をするかもしれんぞ」
「あんだとテメエ…」
益々身構える武林。完全に逆効果だ。




