長四木並絋の場合 17
第三十四節
「…地元にお帰りになると」
「自分、高1やろ?タメやねんから敬語やめてんか」
「とにかく、それでもいいんで。是非!」
「SENNやっとる?」
「ええ。付き合いでやってます」
SENNとは一世を風靡している無料会話アプリである。
「ならアドレス教えといてや」
「必要ねえよ」
ふーふー言う瑛子の鼻息が聞こえてきそうだ。
「瑛子さん、ここはこらえて。今のボクらには絶対に情報が必要だよ」
「…あたしはもう話さねえぞ」
瑛子をなだめながらSENNアドレスを交換し合う群尾と陸奥。男同士なんだが、陸奥は完全に女子高生スタイルのままである。まるでナンパに成功したダサ男くんが女子高生のアドレスゲットに成功した構図だ。
「ま、確かに能力持ちなんやったら挑まれることもあるやろうからある程度知識はあった方がええな」
「ええ」
視線が定まらない群尾。
小さく耳打ちする陸奥。距離が近くなって何かいい匂いがする。
「自分、今のワシがうらやましいやろ?」
「え…」
かあっと赤くなってしまう群尾。
「だーっはっはっは!分かる分かる!ワシも自分の立場やったら押し倒しとるわ!」
バンバンと背中を叩く。
おっさんみたいな女子高生だ。中身は男だけに。
「ま、能力持ちの特権や。悪いな」
叩いた手と反対の手でむにゅっ!と自分の乳房を鷲掴みにしてみせる。
「…さっきの『変身決着』って、あれも戦略でしょ?」
「…分かるか」
ここは瑛子に聞かれない方がよさそうだ。
「年齢設定の違いはあるにしても、男を一から女にするのに比べれば、女を女にするのは行程数が少ないですよね?」
「ま、そゆことや」
第三十五節
「…だったら男の方が一方的に有利なんじゃ?」
「ンなことない。この能力は基本的に個人差は余りあらへん。男女でもや。ただ」
「…ただ?」
「コツめいたものはあるわな。使い慣れは確実にする。あと、個性もある」
「…衣装とか」
「ビンゴや。彼女は…これやろ?」
「これ」のタイミングに合わせて指先でスカートをつまんで持ち上げる。
「でもってワシはスクルート・スーツや。今日はとりわけスカートのタイトをキツくさせてもらった上に、お尻側のスリットのはつり糸を抜いとらん状態にさせてもろたわ」
「…っ!そんなアレンジが出来るんですか!?」
「アレンジの幅も個性みたいや。だからワシらジャンキーはお互いを実験台にしてどこまでアレンジ出来るんか徹底的に調べるんやで」
「…凄い世界ですね」
「それから口車やな。メタモル・ファイトはお互いが了承しとればどんな形式でもかまへん。相手にそれと気付かせずに自分の有利な土俵に引きずり込むかや」
「タクヤぁ!もう帰るぞ!」
「じゃあここで!…これからどうするんです?」
「シティホテルなんや。もう鍵受け取って、フロントに預けずに持ち歩いとるんや。普通に帰って泊まるで」
「…その恰好のままで?」
「これか?」
両手を広げて自らの女子高生姿を見せつける陸奥。可愛い。
「今日は二戦目や。出来たらもう一人くらい見つけて戦いたいおもとんねん」
ため息をつく群尾。
「本当にジャンキーなんですね」
「今のままやと、悪いけど『関東もんは大したことあらへん』って地元に帰って言いふらすことになるなー」
「反論できません」
「ということで、相手が見つかったら解除するよって、それまで楽しませてもらうわ」
「…?そのまま戦えないんですか?」
ほう、という表情になる陸奥。
「その辺りのルールについてはまだ知らへんみたいやな」
「ゆくゆく教えてください」
「あのおっかない彼女はあんまり応援出来へんねんけど、自分は助けたなるな。ま、その内や」
踵を返すと、健康的な太ももも眩しいミニスカートの女子高生姿で陸奥海斗は人ごみに消えて行った。
沢尻瑛子一行にとって、きちんと形式にのっとった「メタモル・ファイト」を行った最初の事例となった。
*沢尻瑛子 メタモル・ファイト戦績 〇勝一敗〇引き分け 性転換(変身)回数一回




