長四木並絋の場合 14
第二十八節
丁度人ごみが少ないタイミングを狙って瑛子初の「メタモル・ファイト」が始まった。
相手に触ればいいんだ。触れば。
だが、相手の方が上手だった。
瞬時に目の前まで来ると、ぽんと肩にタッチして直に離れる。
「野郎!」
飛び掛かろうとしたが、同時に電車を降りたらしい乗客が大量に押し寄せてきた。
「っ!!?」
慌ててバックステップしようとするが、猛烈に早足で周囲もロクにみていないDJ風の若者に接触してしまう。
「わっ!」
ふらつく瑛子。
DJ風の若者は特に睨みつける訳でもなく、スタスタと歩いて行ってしまう。
ふと視線を上げると、反対側の壁にもたれて腕組みをした陸奥がにやにやしている。
人差し指を立てている。
「1」…という意味だろう。
一回接触したから、次でアウト…という訳だ。
「瑛子さん!」
うるせー馬鹿!気が散るんだよ!
…と、思ったが頭に妙な感覚がある。
「…!?…これは…」
ショートカットにまとめていた瑛子の髪がぐんぐんと伸びていくではないか。
「…上等じゃねえか」
相手をオンナにする能力ってか…悪いけどこちとら生まれて十七年休まずオンナやってんだ。今更髪が伸びたくらいで動揺するかってんだ!
ドン!と強く押された。
「わあっ!」
第二十九節
髪の毛に気を取られた隙を衝かれた。
…視点が…高くなってる?足が妙に痛い。
「あああっ!?」
もうハッキリ分かった。これは…ハイヒールだ。しかも…ストッキング履かせてやがる。
視線を降ろす。
「…っ!!?!」
黒づくめのキツいタイトスカートである。
こ、この変態野郎!男のくせにハイヒールだのストッキングだのタイトスカートだのを器用に操りやがって…。
また目の前に迫るイケメン。こいつは元の制服のままだ。
「野郎!」
必死にパンチを繰り出すが、前方につんのめりそうな高いハイヒールの中でストッキングが滑ってしまう。
「きゃあっ!」
タイトスカートに脚がからまり、ひっくり返りそうになる。
思わず目の前のものを必死に掴んだ。
「ッ!!!いたたたたたた!」
不意を衝かれたらしい陸奥が悲鳴をあげる。
それは陸奥の髪の毛だった。
倒れない様に必死に空中をかきながら仕方なく掴んだ髪の毛に体重を預ける形となる。
陸奥もこのままではいけないと一緒の方向に倒れ込んだ。




