長四木並絋の場合 10
第十九節
「あたしは女だから効かないよ」
「いや、そんなことは無いと思う」
「あによ、男にされたりするっての?」
「それは分からない。でも、今日の小太りは男の子専門じゃなかった…いや、明らかに女の子がねらい目だったはずなんだ」
「…で?」
「推測だけど、元は女の子を『変身』させて意のままに操ってたんだと思う。でも、変える姿が女子高生くらいの年齢で、制服まで同じだったから結果として変化が無く見えたってだけじゃないかな」
「…?オンナを女にしてたっての?」
「『相手を女子高生にして女子の制服を着せる』のが能力だとするなら、仮に成人女性や、幼稚園児でも女子高生にしちゃうことになると思う」
「…年の話はともかく、女を女にしてどうすんのよ。意味ないじゃない」
「意味なくはない。この能力は相手を精神的にコントロール出来るよね?」
「そっか…ってちょっと待って。さっきの小太りにはそういう能力効かなかったよ」
「ちょっとすんまへん」
突然声を掛けられて驚く二人。
「自分ら面白そうな話しとるな?混ぜてんか」
背の高いオシャレ制服の男がいた。
第二十節
「あぁ?何だテメエは」
ヤンキー娘ではなくて、単に口が悪いだけだったのに、能力を背景にした自信からかすっかり言動が荒れている瑛子。
「いや、聞き間違いやったらかんにんな。自分ら、メタモル能力の話しよったやろ?」
顔を見合わせる瑛子&拓哉。
第二十一節
「山手線の構内たあ大胆やな」
乗り換えをするための広くなっている廊下である。
周囲には人が絶え間なく行き来しており、右から謎の男、瑛子、拓哉の順に背中を壁に付けている。
「密室は気が進みませんでね」
「…観たところ自分からは気配は感じひんねんけど?」
「…その様です」
「とりあえず名乗れよ」
腕組みをして瑛子が言う。
「おお、陸奥海斗や。苗字は東北やねんけど、生まれも育ちも関西や」
「だろうね」
余り関心なさそうに瑛子が言う。
「自分、かなり強いやろ」
「自分って何よ?わかんねーんだけど」
「関西では『自分』は二人称だよ。キミ、とかあんたとかそんな感じさ」
「そーそー!分かっとるやないか」
「で?その陸奥くんが何か用?」
「きまっとるがな。戦ってくれや」
長い沈黙。
いや、実際には駅構内の喧騒が絶え間ないのだが。
「…は?」
「お、そのリアクションは余りメタモル能力を知らへんな」
「失礼」
群尾が手を上げる。
「その、メタモル能力って何ですか?」
「…そこからかいな…」
頭を掻いている。




