長四木並絋の場合 07
第十二節
「…もう二度とデニムスカートなんて履かねえよ」
瑛子が膨れている。メタモル・ファイト時に着ていた服の運動性はかなりの程度格闘戦に影響を及ぼす。
瑛子とて薄々感じていなくは無かったのだが、ここまで苦戦するとは思っていなかったのだ。
逆に言えば格闘には甚だ向かないこのスタイルで圧倒したのだからそれだけ実力が上回っていたとは言えるが。
「まあ、結果として勝ったんだし」
目の前には大の字になって血の海に沈んでいる長四木がいる。
「…それにしても、こいつ何なんだよ」
「同類…だね。間違いなく」
視線を体育館の中央にやると、そこには女子生徒が気絶している。さっき投げられたショックだろう。
「同類…って、こいつも男を女にする能力もあるってこと?」
「だろうね。さっき「女にしてやる」って言われた」
「うっそ…危なかったね」
「うん。助かったよ」
「それでか…」
考え込む瑛子。
「何か?」
「どうも最近、街中でもそういう雰囲気を感じると思ったんだ。同類だったんだな」
「…街中にも結構いるってこと?」
第十三節
「きっとこいつ余罪がボロボロ出て来るよ」
「…だろうね。この間のロリコン教師もそうだったし」
瑛子がまだダメージが抜けきっていないのか身体のあちこちを振ったりしている。
「男の子も犠牲になってる可能性がある…というか間違いないね」
「へ?こいつそういう趣味ってこと?」
「…いや、そうじゃなくて、「能力」を使ったんだとしたら」
その時だった。
「う、う~ん…」
長四木がうめいた。
「野郎まだ生きて居やがったか…」
「この場は退散しよう。襲われてた彼女には悪いけど」
第十四節
瑛子たちは電光石火の早業で倒れていた女子生徒を担ぎ上げると「保健室」に向かった。休日であったために目撃者は出さなかった。
日曜日だったせいなのだろう、保健室は開いていなかったが、その廊下に横たえる。
息をしていることは確認出来たので、死にはすまい。
一応これで体育館での惨劇と無関係と見てくれればいいのだが…。
体育館内は敢えて放置して通報もしなかった。
どう通報したってアシが付く可能性が高い。
メタモル能力が効くならば変身させた上で洗脳を掛けることもできるが、何故か通じないので普通に肉体的にダメージを与える以上のことが出来ない。
客観的な罪状からして流石に殺すのは難しい。
あのまま死ねばよし、死ななかったとしても大問題になるだろう。
こちらは顔も観られてはいるが、あのデブが当局に訴え出てこちらが特定されるかどうかは何とも言えない。
確かに血液やDNAなどの痕跡は現場に残りまくっていることは予想されるが、それを持って何らかの犯罪を構成するとは考えにくい。
もっとも、瑛子は先日のキングス事件で警察の厄介になってはいるが主に加害者では無くて被害者としてだ。
これ以上悲観的に考えても仕方が無い。




