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長四木並絋の場合 06


第十節


「分かってっからいいから出ろ!」

 事態は一刻を争うことを察知した瑛子が長四木に飛び掛かって行く。

 「分かってる」とは、人質にされかねないことだろう。

 だが、この矢鱈やたらにモノが多い部屋にいると、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる方式でひたすら投げまくられ、その内一つでも群尾に直撃したらそれだけで致命傷だ。

 今この瞬間の危険性の方が、瑛子が不覚を取ってこの体育倉庫から逃がす危険性よりも高いのである。

 再び飛んできたバスケットボールを殴り返す瑛子。

 あの丈夫な皮がはじけ飛ぶ。

 そのままの勢いで長四木の顔にパンチがめり込んだ。

「ぐああああああああ~っ!」

 そのまま取っ組み合いとなる。

 体育倉庫の中のものは何一つ原型をとどめないほどに破壊され始めた。

 服があちこち破れている女性をエスコートすることには気が進まなかったが、とにかく手を引いてその場を離れる。

 もしも瑛子さんがノックアウトされてしまったならば、この小太りは間違いなくこちらを襲いに来る。

 今は少しでも距離を稼がなくてはならない。


 群尾はその足で体育倉庫を出た。

「いやっ!」

 女子生徒が抵抗する。

「ちょっと!」

「観られたくないの!」

「…っ!」

 そこまでは想像が及ばなかった。

 あちこち乱れた制服からは直前に何があったかは明白だ。

 未遂に終わったとはいえ、事実そのものは消せない。

 群尾の構想ではこのまま職員室に駆け込んで事実を公表すべきかと思ったのだが、それでは「セカンド・レイプ」になってしまう。

 だが、今はそんなことを言っている場合ではないのだ。

 恐らく第三者の目撃者を出してしまった小太りは、おのれの社会的地位を守るためならなりふり構わないだろう。

 今は同等の戦力を持つ瑛子さんが足止めしてくれているが、そうでなければきっと二人とも首を物理的にねじ切られていたに違いない。

 とはいえ、この状態の女子と言い争いをしていては自分が下手人と疑われてしまう。


 次の瞬間だった。



第十一節


 目をくわっと見開いた小太りが体育館の入り口から飛び出してくると、二人を掴んで体育館の中央方向に放り投げた。

「わああああっ!」

「きゃあああああーっ!」

 目の前がぐるぐると回転する。

 あちこちを叩きつけられ、かなり長い距離を転がった。

「あ…」

 もう目の前に小太り…長四木がいた。

「ふざけやがってこのクソガキが…てめえなんぞ…女にして可愛がってやる」

「な…」

 仰向けになった状態で視界を覆うその表情。手が伸びてきた。

「うわあああああああ~っ!」

 瑛子の飛び蹴りが長四木を直撃した。


 そこから先は細かい描写がいちいち出来ないほどの凄まじい戦いだった。

 目にも止まらぬ速度で交錯しあい、打撃を交換する。

 だが、徐々に体制が傾いてきた。


 何だかんだ言ってもこと「戦う」と言うことに掛けては一日の長があった瑛子が、長四木を圧倒し始めたのだ。

 そして遂にマウントポジションに捉え、拳よ砕けろと言わんばかりにボコボコに殴り始めた。

「死ね!死ね!死ね!死ね!死ねええええ!!」

 体育館に、ドカン!ドカン!という音が響き渡り続ける。



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