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長四木並絋の場合 05


第八節


「あなたのやり口は分かってますよエロ教師さん」

「あんだとデブが…」

 お前に言われたくないよ。

「これはブレインウォッシュですね。洗脳ですよ」

「おい、たあくん何言いだすんだよ」

「女子生徒を徹底的に自分の精神的支配下に置いた上で犯す…と。支配欲も満足した上に口外される危険性も少ない。最悪の外道ですな」

「話が見えねえよ!何だってんだ!」

 何故か瑛子がキレている。

「うるせえぞ豚が…てめえなんざ…」

 物凄い速度で近づいてくる長四木。

 だが、それを黙って見ている瑛子ではない。

 両手でカウンター気味に突き飛ばす。

「っ!?」

 正面から食らった形になった長四木はもんどりうって跳び箱に叩き付けられた。

「…何だよこのデブ…なんて動きを…」

 瑛子も面食らった。

 そして、直感的に気が付く。

 …まさか。

 あれだけのダメージがありそうなのに、跳び箱の残骸からむっくり起き上がってくる長四木。

「ふ…このビッチが…」

「…面白れえ。見かけによらねえケンカ自慢かよ。受けて立ってやらあ」

 現役女子高生のセリフではないが、特殊能力に目覚めたものの社会的責任って奴だ。

「瑛子さん気を付けて!そいつは…」

「何だか知らねえが、お前もオンナにしてやる!」

 瑛子は長四木に飛び掛かって胸倉をつかみ、体育倉庫の反対に向けて投げ飛ばす。

 やはりまともに食らった長四木は色々なものを巻き添えにしながら転がる。

「へっ…どうだよ」

 だが、瑛子の余裕の表情も長くは続かなかった。



第九節


 次の瞬間、ずっしりと重いバスケットボールが唸りを上げて飛んできた。

 咄嗟に交わす瑛子だったが、反対の壁に当たって跳ね返らず、破裂してしまう。あんなものが直撃したらかなりのダメージだろう。

 瑛子ならともかく、この部屋には普通の人間があと二人いるのだ。

「さっさと出ろ!やべえぞ!」

「ボクの邪魔をする気か?…女のくせに」

 瑛子の背中を冷や汗が流れ落ちた。

 群尾も同じことを考えている。

 …能力が効かない…?

 瑛子の「相手を女体に性転換させ、女子高生の制服姿にした上で思い通りにコントロールする」という能


力が全く効いていないのだ。

 咄嗟に普通の人間二人を脱出させようとした判断は悪くない。

 悪くないが、この小太りエロ教師は、先日の炉木根ろき・さとしの様なザコではない。

 瑛子と同等かもしくはそれ以上の身体能力がある。

 仮に脱出が上手く行ったとしても、この部屋から出て追いすがってきたならば「人質」となってしまう。

 かといって、同じ部屋に居座っても瑛子に「守りながら戦う」ことを強いることになる。完全にお荷物だ。

 …何てことだ。

 これまで、「同等の敵」との遭遇をイメージしなかった訳ではない。

 しかし、それにしても能力すら効かないなんて…。


 彼らは「メタモル・ファイト」の基本ルールである「メタモル・ファイトの形式を了承し合ったメタモル・ファイター同士でない限り、メタモル能力者にはメタモル能力が効かない」という条項を知らないのである。


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