陸奥海斗の場合 05
第九節
一歩距離を取る陸奥。
「…やるやないか…」
「何となくね」
髪を振り乱し、服も乱れているセーラー服女子高生姿の陸奥の足元は、ピンク色のスリッパ…室内履きだった。
これは動きにくい。通学用の革靴、スニーカーなどに比べて運動性が劣悪だ。
橋場は一度相手に掛かった能力を「調整」することで革靴をスリッパに変えたのである。
靴下にスリッパで柔道なんぞやった日には、間違いなく靴下とスリッパがずるりとずれるに決まっている。
バランスを崩した陸奥はそのまま大外刈りを諦めて距離を取ったのだ。
「分かってきたようやな」
「ああ」
そうなのだ。これは「相手に着せる服」まで咄嗟にアレンジすることで戦いの帰趨を操作するという戦い方なのである。
「しかし…まだワシが有利や」
スリッパを脱ぎ捨てる陸奥。
「痛いだろ」
「まあな」
ここは人気のない路上だ。小石などがあちこちに落ちている。
だが、厚手の靴下とストッキングでは分が悪い。
ストッキング?そうストッキングだ。
パンツスーツとハイヒールの中の女体の下半身にはストッキングが被せられていた。
うっすらと覆う第二の皮膚は、こと装甲と言う事だけで言うなら裸足と変わらない。
覚悟の上でハイヒールを脱ぎ捨てた。
ストッキングごしに地面の凸凹がチクチクと感じられる。
「ええ覚悟や」
こんな路上でハイヒールを脱いでセーラー服の女子高生と対峙する女子大生ってのは何なのか。