シンタロウ・オガタの場合 21
第二十八節
「本当にいいんだね?」
「ああ。この旅費だけで結構」
バックパックに無造作に札束を放り込む。早速ボスとして振る舞い始めたキャシーからもらった二万ドルだ。
「誰か一人お持ち帰りもありだよ?すぐには出ないんでしょ」
「…いい営業トークだね。でも生憎お相手はいるんだ。日本にだけど。ボクは少なくともお仕事で女の子に辛い思いはさせたくない。…それに、事情を知ってるだけに新入りバニーの皆さんと寝るのも気が進まないのさ」
肩をすくめるキャシー。本場だ。
「…だろうね」
しばし沈黙。
「年増でいいんならあたしとかどう?」
「…ボクの目にはどこにも年増なんて見えないが?」
「冗談だよ。…でも助かった」
「どういたしまして。その為の能力さ」
「あいつら…新入りバニーども…はこれからこき使ってやるわ。まあ、どいつもこいつも基本あたしより美人なのはムカつくんだけど」
「ハハハ!そりゃ悪かった」
しばし見つめ合う二人。
「またテキサスに来たら寄ってね」
「必ず」
ハグをした。
第二十九節
カッ!と目が見開かれる。
「あ、目ぇ覚めたんだ」
蓮っ葉な感じのダーティブロンドがベッドわきに座っていた。
「ここは…?」
「病院だよ」
起き上がろうとするが、中々難しい。
「無理すんじゃないよメグ」
「あなたは?…?」
「何度かお店にお客として行ってるんだけど…覚えてないかな。キャシー」
「キャシー…?」
「一マイルほど離れた『ゴリアテ』を取り仕切らせてもらってるわ」
「えっ!?」
「あー、そんなに構えないでよ。もう大丈夫だから」
「大丈夫?」
「状況だけ整理すると、あんたは店の中で撃たれたの。すぐに病院に運ばれて手術。どうにか助かったけど最近まで昏睡状態だったわけ」
「…そう…シン!シンは!?」
「言うと思った。落ち着いて」
キャシーはカンのコーラを飲んだ。濃い口紅が付着する。
「結論から言うと、スミス、ケビン、ディックを始めとしたゴリアテの幹部連中はみ~んな行方不明になっちゃったわ」
「えええっ!?」
「驚くも無理ないけど事実ね。だからあんたんところはもう安泰」
茫然としているメグ。
「オタクとは客層も全く被らないし、対立する理由は全く無いわ。ご近所同士仲良くしましょ」
「…はあ」
「一応形式上はあたしもマフィアの一部ってことになるけど、下っ端のやとわれ店長。元はカンザスのチアリーダー崩れでしかないわ。怖いことなんて全く無いから安心して」
「シンは?シンはどうしたの?」
「…次の州に行ったわ」
「そんな…」
「お別れも無しにって?彼なりの優しさでしょうが」




