シンタロウ・オガタの場合 12
第十二節
「そうね。…でも、あたし結婚してるし…お店も」
「やっと見えてきた」
シンが頷く。
「それがあのスミスって野郎か」
首を振るメグ。
「スミスはあたしの幼馴染。マフィアに入ったって聞いたけど地元に帰ってきたと思ったら…」
「マフィアかあ」
マフィアとはイコール「犯罪組織」ではない。元は移民が多いアメリカにあって出来た「県人会」みたいなものである。
人数が多くなったり、所属しているメンバーの社会的地位が高かったりすると、「圧力団体」として機能することもある。だがそれはありとあらゆる団体が当てはまる。この論理で行くと「医師会」や「弁護士会」も「マフィア」ということになってしまう。
ただ、下部組織の『中には』麻薬売買などの犯罪行為に手を染めるものもいるため、「マフィア」=「ギャング集団」の様なイメージになってしまう。
その辺りの機微を説明してもいいんだが、さっき見かけた「スミス」はもう明らかにチンピラだ。つまりは悪い方の意味でのマフィアだ。
「スミスはあのバニーズ・バーで働いてるの。ボスがいるわ」
「…メグを狙ってるのはそのボスか」
頷くメグ。
「ぴっちぴちでむっちむちの若い娘に囲まれてるのに、メグの人間的魅力に気づくとは、その点見どころがある奴には違いない」
椅子から立ち上がって床に降り立つシン。
「しかし、人間社会のルールにゃ従ってもらわんと」
「シン…どうするの」
「海兵隊所属のハンサム旦那がいるんだ。スッパリ諦めてもらうさ」
「でも…」
「なーに、話し合えば分かってもらえるよ」
「ムチャよ。ディックは切れると何するか分からないの」
「…ボスはディックってんだ?好色そうな名前だ」
ディックには隠語で男性器という意味がある。
「ねえシン。やめて。殺されるわ」
「…言ってなかったかな?俺は強いぜ?」
「酔っ払い相手くらいなら無敵かもしれないけど、ここはテキサスよ!トーキョーじゃないの」
「知ってるさ」
「…相手は銃で武装してるわ」
「だろうね」




