シンタロウ・オガタの場合 06
第五節
「そんなに気を張ってなくて大丈夫よ」
「いや、義理堅いんでね」
カウンターの隅っこで店全体に目を光らせている男。カウボーイハットにガンマン風のコスプレは相変わらずだ。
ガラスのコップに冷めたコーヒーがつがれている。
「看板までこうしてる」
「困ったことがあったら呼ぶからのんびりしてていいわよ」
「そうありたいもんだね」
「そうそう、昨日つい訊きそびれたことがあったわ」
マダムが皿を拭き拭き話しかけてくる。
「あなたのファーストネームは?」
「…日本じゃファミリーネームが先なんでファーストじゃないけど…まあ、シンと呼んでくれ」
「あらそう。シンね」
「そう。男前すぎて“罪”ってね」
ウィンクする男、シン。
「俺もマダムのファーストネームを訊いてなかったな」
「マーガレットだけど…メグでいいわ」
「イエス、メグ。マーゴとかマギーよりメグがいいんだ」
「大げさだもん」
「素敵だと思うけどな。マーガレット。確か日本の少女雑誌にそんな名前のがあったはずだ」
「…?日本には若い女の子が読むためだけの雑誌があるの」
「何十種類もね。でもそんなの世界中にあるだろ」
「少なくともこの辺のスタンドには売ってないわ。あたしは読んだことない」
ドアが開く音がした。
「うーい!来たぞー!」
既に赤ら顔になっている白人ででっぷり太った集団がどやどやと入ってくる。




