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シェへルティアの黒狼騎士  作者: 夏萌
第一章 ミクベクレンの森・前編
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7話 遭遇

 


 精霊の住処にて、カリオは数十の精霊たちと話し込んでいた。

 内容は魔物の動きが活発になっていること。


 ここ数年で結界内に進入した魔物の数は増加の一途を辿っている。

 必然的にカリオの討伐件数が増えるので、精霊たちは申し訳なさそうにしていた。


『すまない、カリオ。我々も力を尽くしているが、これが限界だ』

 代表して常々まとめ役となっているマーロウが己らの力不足を謝罪した。


『気にするな。今でも十分力を貸してくれてるさ』


 確かに出現率が上がっているが、それは精霊たちが手を抜いてるわけでも、力が弱まっているわけでもない。魔物が苦痛な空間に入ってでも手に入れたいものがあるということだ。


 魔物が人を襲う理由は諸説あるが、最も一般的なのは魂を喰らっているという話だ。

 さほど科学の発展していないこの世界では魂の存在が信じられており、それは特定の信徒でもないカリオも同様だった。


(余程美味しそうな魂を持った子でも産まれたのか?)

 シオの存在が頭をよぎる。時期的に一致するのだ。

(いや、討伐時もシオだけを狙うような動きはしてなかった。杞憂だろう)


 背後ではシオと数体の精霊との話し声が聞こえてくる。距離があるため、内容は分からない。盗み聞きするつもりもないが。


 シオと話しているのは精霊たちの中では若い者たちだ。しかし、若いという理由で会議に参加していないわけではない。そもそも、彼らだって数百年は生きているのだ。


 カリオとしてはシオの面倒を見てもらう、悪く言えば見張ってもらうという意図があった。そしてそれをシオと仲のいい四体に任せているのだった。

 数分後には見事にその期待は裏切られるのだが、この時のカリオはまだ知らない。


『気は進まないが他の魔物狩人(ペラード)とも連絡をとってみるか』


『相変わらず仲が悪いな』

 マーロウか苦笑気味に言う。


『全員じゃないさ』

 まともに付き合いがあるのはほんの数人だが。


『しかし、なるべく多くの者と連携をとっておいた方が良い。今回の事態も何かの前触れに思える』

 一呼吸置いて、再び口を開く(精霊に口はないが)。

『せめて…アレが現れる予兆などではあって欲しくないな』

 名を口に出すのも憚られる凶悪な存在。カリオも伝聞でしか知らない、伝説の怪物アンシェントモンスター



 カリオは気を取り直して他の魔物狩人と連絡をとる準備を始めた。

 懐から手のひらサイズの円盤を取り出す。盤の表面は厚さ1cmの円盤にカットされ丁寧に磨き上げられた水晶、裏面は青銅で出来ていた。水晶から透けて見える銅板の内側には魔法陣が刻まれている。


 これはカリオが所有する魔道具の一つで、相手の魔道具の魔法陣を水晶に記憶させることで通話が可能となる。


 水を使った似たような魔術もあり、こちらは水の表面積によって双方から見える映像の大きさを調節できる。


 魔道具では大きさは変えられない、相手も同様の魔道具を持っていないといけないなどのデメリットがあるが、手っ取り早いし、何よりこれからかける相手はあまり顔を合わせたくない人物なのでこのサイズで丁度良い。


 何故一番手がそんな相手なのかというと、


(面倒そうな奴から連絡していこう)


 などと考えたからである。


 この魔法を使うと周囲の音が聞こえにくくなったり、気配を感じにくくなるためこの森で使うのは控えているが、今は精霊たちがいるため安心して使える。


 魔道具に魔力を流すと、刻まれた魔法陣が淡く光る。次に連絡先の魔法陣を呼び起こす。水晶の中に魔法陣が浮かび上がる。


 しだいに周りの音が遠ざかって行くが、これは相手の魔道具に繋がった証でもある。



 こうしてカリオの察知能力が低下している隙にシオは抜け出してしまったのだった。




 * * *





 アジスたちが分身を作り終えた頃、俺は崖下で頭を抱えていた。


「い、いたい…」


 心が。


 着地自体はなんとか態勢を整えて足、腰、胴と衝撃を分散し和らげた。

 そもそも、崖と言っても15mくらいしかない。


 いや、獣人じゃなかったら骨折とか、下手したら死んでる高さだけどさ。

 さすがにこれは怖かったし。


 とにかく、身体は足がジンジンするだけ。


 でも、ダサい。激しくダサい。

 調子乗って人外のスピード出して、転けて転んで転がって崖に落ちるとか……。


 右に左にゴロゴロ転がりながら身悶える。



 あの鷲(ヴォルくん)がワザとここに誘導したんだよな。落とそうとした…ってのは考えすぎか。

 気の根っこに躓いても、前に出した足が石を踏まなければ転んですらなかったし。


 しかし、まんまと巻かれてしまったわけかと嘆息し上空を見上げる。

 やはりヴォルくんはいなくなっていた。


 そう思っていたのだが、羽ばたきの音が聞こえてきて振り返ると、鮮やかな黄色の嘴を持った大鷲が地面に降り立つところだった。


 思わず身構えるが、襲ってくるなら急降下し勢いをつけた状態で仕掛けてくるはずだと気付く。

 もちろん警戒は解かない。


 ヴォルくんは翼をたたむと咥えていた紙束をそっと地面に下ろした。


 もしかして返してくれるのか?


 ヴォルくんは何だか申し訳なさそうに項垂れ、少ししてから紙束を置いて飛び立って行った。


 ほんと


「ほんと、何だったんだ……」


 思わず口に出していた。




 身体の怪我も大したことないので、早くロロの元に戻る方法を考えよう。


 壁面に凹凸のある崖なら登ったが、この崖はキレイな断層面だった。

 これじゃあ手足をかけて登れない。


 この崖どこまで続いてるんだろう?


 俺がいる場所は丁度壁面が三日月型に歪曲している中心で、前方にはまた森林が広がっている。


 三日月の端の部分から顔を出し覗いてみる。案の定両側ともまだまだ崖は続いていた。


 なんとなく元の場所に戻って壁面を見つめる。

 そしてふと気付く。


 あれ?

 この崖地震とかで出来た断層だと思ってたけど、普通こんな綺麗な三日月型になるかな?


 なんか後からここだけ抉ったみたいな………



 その時背後の森林から折れた枝や葉っぱを踏む、微かな音が聞こえてきた。人間の耳ならまず聞き取れない程の音。


 ヤバイ。何か来る!


 急速に頭が冷えていく。

 崖から落ちた恐怖で本当は全然冷静じゃなかったことを認識する。


 この状況をなんでもっと深刻に捉えなかった!


 もし、俺一人で魔物なんかに遭遇したら……!


 そうしているうちにも枝を踏む音、木の葉を揺らす音が大きくなり、遂に黒い影が木々の間から姿を現した。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


長くなりそうなので分割しました。

最初は一話で終わらせるつもりだったのに三話になってる…。


ところでタイトルについて。

「騎士」ってついてますが、これは「姫を守るナイト」みたいな物語上の騎士のイメージを暗喩したもので、シオが馬に乗るとか(こいつ馬いらない)騎士階級になるという意味ではありません。


しかし、大変紛らわしいので、もしかしたらタイトルを変更するかもしれません。

すいません…。

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