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シェへルティアの黒狼騎士  作者: 夏萌
第一章 ミクベクレンの森・前編
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6話 大鷲の誘い

明けましておめでとうごさいます。

 


 俺の努力の結晶がミュンの友達(笑)に盗まれるというハプニングの間、父さんは他の精霊たちと何か話し込んでいた。

 おかげでこちらの騒動には気づいてないみたいだ。

 騒いでいるのに気づいていたとしても、反応がないあたり遊んでいるだけだと思っているのだろう。



 あの大鷲を探しに行くのにあたって問題がある。

 父さんに普段から一人で行動するなと言いつけられているのだ。(家の周辺は別)

 かと言って父さんに付いてきてもらうわけにはいかない。物が物だし。


 だから、こっそりここを抜け出して素早く大鷲を探し出してまたこっそり戻ってこなくてはならない。

 我ながら無茶苦茶な作戦である。


 でもあれは取り戻したい。基礎的な知識は頭に入ってるけど、もう一度魔法陣を写して分析図を描くのは骨が折れる。


 ここは精霊たちの力を借りるとしよう。ミュンも無関係じゃないし。


『僕ちょっト、あのわし追いかけテ、くるから、父さん二気づかれナイよう、僕のブンシン、とか作レない?』


『さらっととんでもないこと言うね…』

『確かに私たちは魔力の残滓を散らさずに魔術を使えるけど…カリオに気づかれないようにするのはなかなか大変よ』

『そもそも、仮に追いつけたとして上空にいる相手からどうやって取り返すんだ』


 この身体で全力で走ればあの鷲に追いつくのも不可能ではないが、確かに俺は空を飛べない。

 いざとなったら石でも投げて落とそうと思ってたとか言ったら怒られるかな……

 なるべく怪我させない方向でいくけど。


『まぁそれは、追いついてカラ、かんがえルよ』


『でも、一人で行くのは危険過ぎるよ』


『一人ジャ、ないよ。ロロがいルから』

 うん、だからギリギリセーフ。


 …ってことにしとく。


『〜〜〜ッ絶対ロロから離れるなよ?』

『ちょっ『あリがとう、アジス‼︎』』


 シェトラに反対される前に走り出す。

 あくまで父さんに気づかれないよう、慎重かつ素早くだ。

 ロロもちゃんと付いてきていた。相変わらず狼とは思えない頭の良さだ。



 まだ大鷲のヴォルくんが大気をきって空を飛ぶ音は聞こえるが、だいぶ離されてしまった。


 父さんたちに音が届かない距離まで離れてから、精霊たちを信じて全速力で走り出した。



 それにしても父さんたちはあんなに長々と何の話をしてるんだろう?




 * * *





『アジス。この森があの子たちにとってどれだけ危険か分かってるでしょう?』

『重々承知してる。だが、魔物が結界内に侵入すれば俺らもカリオも気づく』

『野生の動物だっているだろう?』

『それこそロロがいれば大丈夫だろう』


『…私たちがここを離れられれば問題ないのに……』

『それは言っても詮無いことだよ』

 ジスタの言うとおり自分たちがここにいることで彼らの負担を和らげているのだから。



 アジスが土人形を作り始め、ミュンが並行してそれに幻覚魔術をかけていく。


『お前たちが心配するのも分かるが、あいつはただ守られているだけのつもりはないんだろ。単なる興味だけで魔術を使いたがってるわけじゃなさそうだ。』

『何故そう言い切れるのよ』

 シェトラは不満そうに尋ねる。

『だってあいつ“魔術結界(ソーサリーシールド)”から覚えようとしてるんだぞ?』

『基礎の基礎だもの。当然だと思うけれど』

『カリオの攻撃魔術を何度も見てきた子供が、地味な防御魔術を使えるようになるまでひたすら練習してるんだ。何か明確な目的や目標がなければ続かないさ』

 アジスは少し楽しそうに言う。

 土人形はいつの間にか完成されていた。


『ふぅ。シオできた〜!』

 先程までの空気を砕くような明るい声が上がった。

 ミュンの言うとおり土人形は何処からどうみてもシオにしか見えない。

『ご苦労。それじゃあ仕上げはシェトラに頼もうか』

 このままでは動いたり話したり出来ないのだ。

『そうやって私も共犯者にするつもりなのね』

 皮肉混じりだが、呆れたような諦めたような声音だった。

 シオを止められなかった時点で自分もアジスと同じなのだから。



 三人の会話に耳を傾けながら、ジスタは一人黙考していた。

(アジスはシオの魔力量の多さに期待しすぎているんじゃないだろうか)


 確かにシオから感じる魔力量は莫大だ。カリオより多いかもしれない。

 だが、弱冠四歳の子供に求めすぎではないだろうか。

 例えシオが望んでいなくても、まだまだ守られていていいし、守られているべき歳だとジスタは思う。


 アジスはきっとシオの将来が楽しみで仕方ないのだ。あれだけの魔力量を持った者が、一体何処まで強くなれるのか。


 ジスタやシェトラとしては大き過ぎる力は返って身を滅ぼすことになるのではないかと不安なのだが。


 ジスタも知らぬことだが、アジスの最大の誤算はシオが獣人の中でも特殊な純血統の近縁だということであった。




 * * *





 土から飛び出した木の根や細木の枝葉が邪魔する獣道を俺はロロと同じ(・・・・・)スピードで駆け抜けていた。


 今なら50メートル走で3.6秒という人外の記録を叩き出せる。

 まぁ、もう人間でもないんだけどさ。


 多少の高低差は跳躍し、障害物は身体をひねって避ける。

 こんな動きをしながら走り続けられるなんて、地球では考えられなかった。


 当然迫ってくる木々や流れていく景色の速度は尋常でないが、不思議と恐怖感はない。

 獣人の本能によるものなのだろうか。


 疾走しながら耳にも意識を傾け、翼開長2m以上にもなる鳥体が空気を切り裂く音を追いかける。


 しかしさっきからどうも違和感を感じる。木々に止まっているわけでも、旋回しているわけでもないようなのに少しづつ距離が縮まっているのだ。

 俺の走るスピードと鷲の水平飛空速度は同じくらい。つまり、あの大鷲(ヴォルくん)は徐々に速度を落としているということだ。


 まるで俺に合わせているみたいに。


『…まさかな。』



 目視でも位置を確認するため、幹を足場に飛び跳ねて足だけで木に登る。

 既にヴォルくんとの距離は100mもない。その上、飛空している高さは樹木の上5mあたり。


 …やっぱりわざと俺に追わせてるんじゃないか?


 そう思った瞬間、ヴォルくんは方向転換し旋回し始めた。

 俺を一瞥した(ように見えた)後、急降下、そのまま木々の中に隠れてしまった。


 空を飛ばないなら俺の方が速い。

 なんだか誘われている気もするけど、見失う前に追いついた方がいい。

 地上のロロの元へ戻り、ヴォルくんが消えた方向へ走り出す。


 …と言っても10秒もかからず到着。

 密集して生えている地帯に入ってしまったのか、かなり薄暗い。だが、獣人の俺やロロは問題ないし、ヴォルくんも平気なのだろう。


 ヴォルくんは5m先の木の枝に止まり、こちらを見下ろしていた。鮮やかな黄色の嘴には俺から奪った紙束が咥えられている。


 ロロがいるからか不用意には近づいてこない。俺もロロがいるとはいえ、逃げられては困るので動けない。

 なにより、鷲は結構危険だ。違う種だけど犬鷲は自分より大きい鹿を仕留めるって聞いことあるし。


 数十秒睨み合ってから、こんなことしてる場合じゃなかったと気付く。父さんが長時間アジス達の魔術に騙されてくれるとは思えない。なるべく早く戻らなければ。


 しかし、どうしたものか。

 ロロは木に登れないだろうし、俺が登っても飛べるヴォルくんの方にアドバンテージがある。

 道具も何もないから、素手になってしまうのが心許ない。


 あぁもう!魔術が使えたら‼︎



 …意外と説得とか効かないかな?

 半ばやけくそ気味な打開策を打ち出し、実行してみた。

「や、やぁ!はじめ、まして」

 挨拶は肝心だよね。噛んだけど。

「……」

「その真っ白で柔らかい羽と黒くて(つや)やかな羽のコントラストは素晴らしいね」

 とりあえず褒めてみる。

「……」

「その凛々しい顔つきも素敵だ」

 人間相手には恥ずかし過ぎて言えないセリフを連呼。

 ロロはなんとなく何と言っているのか分かるのか、怪訝な目を向けてくる。

 俺も楽しくて鷲(オス)を口説いてるわけじゃないんだよ?

「ところで君がその雄々しくも美しい嘴に咥えているものなんだけど…それは僕の大事なものなんだ」

「……」

「どうか返してくれないかな?」


「……」


 たっぷり10秒こちらを睥睨し、徐に翼を広げると、今度は樹木が乱立する森の中を器用に飛行し始めた。


 ダメだった。いや、分かってたけどさ……。



 ふつふつと怒りが再燃してくる。元々、俺が日々書き溜めてきた大事なものを盗まれたことは頭にきていたのだ。


 走りながら手頃な大きさの石を二、三個拾い、華麗に樹木を回避するヴォルくんに向かって投擲。

 正確にはヴォルくんの通過する地点に先回りする形でやや放物線を描くように投げ込む。


 ヴォルくんが三方向から目の前に現れた小石に怯み、少しだけ距離が縮まる。

 もう一度同じように石を投げると、更に差が詰まる。


 後一息、と思ったところで、先程木の上から眺めた景色を思い出す。


 そういえばこの先って………


 突然道が開け、光が差し込む。それまで薄暗かった反動で思わず目をつぶってしまう。しかし、それは大変迂闊な行為だった。


 目をつぶった瞬間、偶々足元にあった木の根につんのめり、踏ん張ろうと出したもう一方の足は、偶々転がっていた小石を踏んづけてしまった。


 バランスを崩し倒れこむ。これが人間の走るスピードなら転ぶだけで済んだ。

 しかし、俺は時速50kmにもなる速さで走り、その上態勢を崩していたため、そのまま地面を転がって行く。


 四、五回肩や背中を打ち付けた後、突然の浮遊感。


 やっぱり、さっきのは見間違いじゃなかったか……


 俺はロロを残し、一人崖下に落ちて行った。



ここまで読んで下さってありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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