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シェへルティアの黒狼騎士  作者: 夏萌
第一章 ミクベクレンの森・前編
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5話 森からの贈り物

年内にもう1話投稿したいなぁ。できるかなぁ。

 


 ミクベクレンの森の奥深く、魔物の出現率が上がるこの場所で、父さんが白い器に黄金色(こがねいろ)の樹液を注ぐ。その奥では様々な色に淡く光る球体・精霊たちが上機嫌に飛び回っている。


 彼等の丁度真上では二対の巨木が自然に作り出したアーチが圧倒的な存在感を放っていた。



 メリアの樹液は彼らの生命活動には関係しない。しかし、最上にして唯一の嗜好品らしい。彼らの喜びようからもそれが分かる。


 精霊たちは基本的にこの場を離れられない。父さんとの契約を履行するためでもあるし、他にも理由はあるそうだが聞いても教えてくれなかった。父さんも知らないらしい。


 父さんと精霊たちが交わしている契約とは、森を霊的に安定させ魔物の進出を抑える代わりに、メリアの樹液を定期的に届けるというもの。


 最上級の聖級魔術である契約魔術まで使うのだから、双方にとってどれだけ重要かが伺える。

 両者にメリットのある取引なので、魔術で縛らずともお互い契約を反古にする気はさらさらないのだが。




 昨日川辺で何度も【魔壁結界(ソーサリーシールド)】に挑戦したが、結局一度も成功しなかった。後一歩のところで魔力光が消失してしまうのだ。


 そう、後一歩。

 ほんの少し、何かが足りない。


 もどかしい。


 川の水をパシャパシャ弄りながら若干ふてくされていると、いきなり背後から声がかかった。


「シオ、妙に時間かかってるがどうした?」


 こんなに近づかれても気づかないとは。余程集中していたようだ。

 光の速さで魔法陣の書かれた紙をポケットに突っ込む。


「なっ、なんでもない!ちょっとぼーっとしてただけっ」


 くそっ。相変わらず俺の心臓に悪い登場の仕方をしてくれる。


 そもそも今の俺の体は人間より遥かに五感が発達している。それは第六感に迫るほどだ。

 だというのに父さんはほとんど接近を察知させない。数メートル以内に近づいてやっと気づけるか気づけないかくらい。


 気配を消すのは本人曰く癖らしいが(どんなだ!)、俺の寿命が縮むので止めて欲しい。



「そうか?ならいいが……明日、精霊達に樹液を持って行くけど、久しぶりにお前も付いて行くか?」


 そういえば最近会っていない。早く使えるようになりたくて、魔術の訓練ばかりしていたからだ。

 けど、精霊達はこの世界で唯一の友達なのだ。一日くらい休んでもいいだろう。

 煮詰まっていたし、気分転換にもなる。


「うん。僕も久しぶりに会いたい」




 そうして現在、精霊達の住処にて「食事中」の彼等を眺めている。


 その光景は何度見ても美しいと感嘆させられる。

 直径30cmの器にたっぷり注がれた樹液は一滴一滴白く輝きながら上昇し、精霊たちの元へと散って行く。

 その上、樹液を取り入れた精霊たちは嬉しそうに明滅しながら飛び回り、幻想的な光景を生み出していた。



 彼らから少し離れた木にもたれかかりながらその様子を眺めていると、狼のロロがすり寄ってきた。


 その首に手を回してふかふかの毛に顔を(うず)める。

 あー気持ちいい。


 ロロもお返しとばかりに前脚を器用に使って俺を抱きしめてくる。


 嬉しい、嬉しいんだけど…

 ロロくん爪っ。

 爪が食い込んでるっ。


 俺の身体が人間より丈夫じゃなかったら生傷が絶えないところだ。



 ロロは狼だけど、物心ついた頃から一緒にいるので、家族みたいなものだ。


 勿論、初めて対面した時は逃げ出そうかと思うほど怖かった。

 そんな歩行力はなかったけど。


 ロロの方は俺が父さんの息子だと分かってるからか、俺の耳が狼の耳だからかやたら好意的だった。


 よくよく考えたら、俺が知らないだけで意識がはっきりする前から会っていたのかもしれない。



 ロロとじゃれ合ってる間に食事が終わったのか、精霊たちが何体か近づいてきた。それぞれ赤や青、緑、紫と淡い光を放っている。

 特に仲の良い四体だ。


 その精霊たちの発する光を見て、魔力光みたいだな…と思う。


 魔力光は人それぞれ違った色をしている。俺は黄色で、父さんは青色だ。だから、赤とか緑とかの魔力光はまだ見たことはない。

 ただ、一体の精霊の青い光が父さんの魔力光に似ていたのだ。


 まだ見ぬ色の魔力光に思いを馳せていると、不審に思った精霊たちが声をかけてきた。


『シオー!』

『シオ?』

『何を考えているんだい?』

『るの〜?』


 順に赤色のアジス、紫色のシェトラ、青色のジスタ、緑色のミュンだ。


『なんでも、ナイよ。みんなの光が、まりょくこう、みたいダと思った、ダケ』


 彼らの言語はこの国の公用語とは異なる。日本語を含めると第三言語となり、まだぎこちないしゃべり方しか出来ない。

 リスニングは割と得意なんだけどね。


『そうかしら?』

『なの〜』

『考えたことなかったなぁ』


『まぁ、ボクも、父さんノくらいしか、みたコト、ないんだけどね』


『ふーん。まぁ関係ないとは思うけどな』

『そうねぇ。私たちは少し次元(・・)が異なるみたいだし』


 次元、ね。

『それっテ、やっぱり、カミサマに近いって、コトなノ?』


 思いつきで言ってしまったが、これは失言だった。


『ハハッ。やっぱり君は唯の子供じゃないね。“神”なんてどこで覚えたんだい?』

 ジスタの質問の意図が分からず首を傾げる。

『……?』


『カリオが子供に神の存在を説くような敬虔な信徒とは思えないものね』

『なの〜』

『それにさっきの口ぶりだと、まるでカリオ以外の魔力光も見たことあるみたいだな。』


 うわ〜鋭いな。ミュンは合わせてるだけだろうけど……

 どうしよう?

 魔力光のことが父さんにバレるのはなるべく避けたい。


 父さんから魔術を学ぶのはもう二、三年経ってからのつもりだ。さすがに四歳の子供が魔法陣の構造を理解してると分かったら訝しがるだろう。


 俺だってわざわざ父さんに奇異の目で見られるようなことはしたくないのだ。



 ここはいっそ魔術の訓練の話だけして、知識の出処の話は有耶無耶にしてしまおうか?魔術のことは黙っていてもらうようお願いすればいい。


『父さんにハ、だまってテ、欲しいんだ、ケド……』


 父さんに隠れて魔術の勉強をしていること、魔力光を安定して出せるまでになったこと、まだ魔術は成功出来ていないことなど、知識の出処の話から逸らしていきつつ説明した。


『たのむカラ、父さんには、イわないでくれ!』

 最後にもう一度念を押しておく。


『分かった分かった!でもそんなに隠す必要あるのか?』

『確かに貴方は早熟なようだけど…正直今更カリオが気にするとは思えないわ』


 アジスとシェトラの言うとおり杞憂なのかもしれない。でも、今みたいに魔術の話から俺が知り得ない知識がもれたら、どう説明すればいい?

 正直に前世の記憶があると言ったって信じてもらえるとは思えないし、変に確執を生みそうだ。

 今はまだ大人しく、ちょっとませた子供でいればいい。



 俺の隠したがる理由を察したのか、ジスタが優しい声音で言う。

『君のお父さんは君が思っているよりずっと、君のことを愛してると思うよ』


 やめてくれ。そういう言い方されると反応に困る。


『そうだよ〜。カリオ前言ってた〜。シオは~カリオにとっての〜ミル・ぺ・ティオルだって〜』


 ……それってなくても生きられるけど、あった方がいいみたいなニュアンスじゃないか?


 いや、待てよ……


 ミル・ぺ・ティオル…………



「森からの贈り物…か」

 そうか。やっぱり、そうなのか。



『やっぱりボク、森デ、ひろわれタんだね』


『『『『!!』』』』



『あわわ……ミュン、やっちゃった~??』

『いやいや、今のはお前の失言って言うか…………』

『シオ、やっぱりって君、気づいてたの?』


『うン。なんとなく、ね』


 そもそも父さんは人間の耳が生えてるから獣人じゃないし、鏡がないから自分の顔ははっきり見てないけど俺たちはあまり似たところがない。強いて言えば髪の色ぐらいだろうか。


 それに、敢えてこちらから話題に出したことなどないが、父さんから母親の話を聞いたことはない。


 父さんはこの森で仕事を始めたのは五、六年前だと言っていた。俺がもう四歳の後半だから、胎内にいた期間も含めて、五年と半年前にはもう母親が妊娠していたことになる。

 なのにあの家には女性が暮らしていた痕跡が全くない。物心ついた当初からそうだった。


 つまり、父さんが一人で暮らしていて、(のち)に俺だけ(・・)が加わった可能性が高いということだ。


 あくまで可能性の話だったけど、彼らの反応からすると間違ってなかったみたいだ。



『……貴方が隠したがる理由がわかった気がするわ』


 シェトラはそう言ったけど、俺は別にそのことは気にしてないんだぜ?

 以前の人生の記憶がある分、出会った当初は血の繋がった親だと思うのは難しかったんだから。



『まあ、そのハナシはそノくらいに、してサ。バレたついでに、そうだん二のってくれない?』

 二週間ぶりに会ったのに、こんな暗い雰囲気は勘弁だ。


『あら、何かしら』


『あのネ、さっきも言っタとおり、まりょくこうは出せるの二、まじゅつはツカえない。何がダメなのか、いっしょに考エて、ほしイんだ』

 そう言って懐から紙束を取り出した。いつもの癖で魔術について書き出したものを持ってきてしまっていたのだ。

 これには魔術書から得た知識をまとめたり、いくつかの魔法陣について考察したことなどが書かれている。


魔壁結界ソーサリーシールド】の魔法陣と分析したことについて書かれたページを開いて皆に見せる。


『これはすごいな』

 ジスタが感嘆の声を上げた。

『ええ。要点を抑えてまとめてあるし、分析も的確だわ』

『ここまで理解してるとは思わなかったぞ』


 一斉に褒められてなんとなくこそばゆい。二十一世紀日本の知識があれば、そんなに難しいことじゃないんだけどな。



 不意に鳥の羽ばたきの音が聞こえてきて、上空を見上げる。こちらに向かってきているような気がしたのだ。


 その予想通り徐々に音は大きくなり、大鷲のシルエットが見えてきた。


『あの鳥、ナんかこっちに、むかってきてナイ?』


『あ~ヴォルくんだ~』


『エっ、しりあい?』


『うん。ミュンの友達~』


 鳥と意思疎通できるのかな?


『ヴォルくーん!こっち~』


『…なんか異様にスピード出てないか?』

 アジスの言うとおり全く速度を落とす気配を見せずにこちらに滑空してくる。


 そして俺たちの間を通り過ぎようとした瞬間、あろうことか俺の持っている紙束を咥えて(・・・・・・)そのまま去っていってしまった。


『『『『……』』』』


「…えっ、ちょっ、え―――――!!!!」

 うそだろ!?こつこつ書き溜めてきた、俺の…

「俺の努力の結晶が~!!!」


 なっなんで?

 鳥よ、お前はそれを何に使うつもりなんだ!


 てかミュン!あれはお前の友達じゃなかったのか!?

 全然コミュニケーション取れてないじゃねーか!!!!(無視してったぞ!?)



 くそぅ。

 とりあえず追いかけよう……


 はぁ、父さんに見つからないようにしないとなぁ




シオは自分の魔力光を黄色だと思っていますが、この世界での一般的な分類では金色です。



ここまで読んで下さってありがとうございます。

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