12話 一難去ってまた一難
間に合わなかった・・・!!
申し訳ないですorz
俺が彼女に出逢ったのは、いや、再会したのは、俺が引っ越してきた小三の夏休みだった。
父親の仕事の都合で、微妙な時期の転校になり、友達のいない夏休みを持て余していた。
母さんに少しは外に出て友達を見つけて来なさいと尻を叩かれ公園に向かうと、彼女はそこにいた。
スカートを履きながら軽く足を開き、腰に手をあてて二、三歳年上の男子三人と対峙していた。
原因は全く掴めなかったが、彼女が背後の男の子と女の子二人を庇っていることだけは分かった。男の子は転んだのか(転ばされたのか)尻餅をついていた。
友達を作りに来たのになんで修羅場に遭遇してるんだろう……
正直巻き込まれたくはない。けれど明らかに分の悪い彼女たちが心配で草陰からそっと覗くことにした。
「私たちが先に遊んでいたのだから、公園から出て行けというのはおかしいでしょ」
年の割に随分と丁寧な言葉遣いだった。
「公園は最低限のルールを守れば、みんなが自由に使っていい場所だわ。でも、今のあなた達ははその最低限のルールすら守れてない」
彼女の主張は正しかった。
しかし、三人の少年にとって元から正しさは関係がない。
年下の、しかも女の子に反抗されると思っていなかったためか、それともまるで大人に“説教”されたように感じたからか。
次の瞬間あろうことか少年の一人が目の前の彼女を突き飛ばした。
小学校高学年にもなってあまりに幼稚過ぎる。だが、後ろの男の子と女の子に恐怖心を与えるのには効果があった。
小学生の頃は二学年違うと大きく感じたものだ。
突き飛ばした少年は、我に返って流石にやり過ぎたと思ったのか顔を引きつらせていたが、友人たちの手前引っ込みが付かなくなったようだった。
その時の俺は頭の中では焦っていたのに心の中は冷静で、こういう場合は第三者の大人を呼ぶか、そのふりをすればいいのだと分かっていた。
だが、その必要はなかった。
俺が大声を出すために息を吸うのと同時に彼女はゆっくりと立ち上がってスカートをパンパンと叩き土を落とした。
そのまま少年達に近づき、何かボソボソと囁いた。すると、三人の少年達は一様に顔を引きつらせ、後ずさりした。
彼らが公園から出て行こうとしたところで、彼女は「ちょっと待って」と呼び止めた。
まさか追撃するのか、と思ったが、
「出て行けなんて言ってないわ。半分ずつ使えばいいだけの話じゃない」
そう言って朗らかに笑ってみせた。
先ほどまでの空気を払拭する眩しい笑顔だった。
俺はその笑顔を 懐かしい と思った。
もう当初の目的は忘れていたけれど、彼女と話してみたいと思った。
* * *
「うーん…やっぱなんかズキズキする……」
一週間前から違和感を感じる尻尾と耳を弄りながら首を傾げる。
崖落下事件から二週間。
俺は父さんから魔力操作の特訓を受けていた。内容は至ってシンプルだが、かなり集中力がいる。
まずは準備運動。魔術書には書いてなかったけど、体力は魔力に少なからず関係しているそうだ。
要するに運動すると魔力が活性化される。
やり過ぎてもその後集中力が続かないので、腕立て、腹筋、ストレッチを軽く行うだけだ。
次に魔力を体内で循環させる。
普段何もしないで魔力を感じるのはヘソの少し上あたり。魔力光を生み出す時も魔力をお腹から指先に収束させているのだ。
この訓練では魔力光にせず腹→左足→右足→右腕→頭→左腕→腹と順番に巡らせる。
地味だが、これをただひたすら15分やるのは結構キツイ。その上休憩を挟みつつも逆回りと交互に3セット。
年齢を鑑みればそれなりにハードだと思う。
やってみると分かるけど、集中力を持続させることが求められるため、身体よりも先に精神が疲れてくる。
一週間後には十五分を三十分に延ばし、更に魔力光にせずに体外に出した魔力をコントロールする訓練が加わった。
元々魔力光は出せていたし、コツは案外簡単に掴めた。でも、魔力が多い俺はもっとシビアな魔力操作が出来ないといけない。
それ故父さんの指導は短期間に詰め込むのではなく、日々コツコツと行い、精度を高めていくものだ。
勿論のんびりとやっていて間に合わないのもマズイが、質を考えれば毎日の積み重ねが大事だということだろう。
思っていた以上にスムーズに進んだため、三週目の今日、魔術も教えてもらえることになった。
午前でこれまでのノルマを終え、昼食後から魔術の練習だ。
調理用の火は父さんが魔術で起こし、俺は家の中から外に米と鹿の干し肉、ケッパというサラダ菜に似た野菜、その他数種類の食材を運んだ。
この世界の主食はパンみたいだけど、日本で食べていたようなしっとりかつふわっとしたものじゃない。(何回かは食べた)
俺らは森暮らしだから、保存が効き、体積の小さいお米を主食にしているんだと思う。
家のすぐ側を流れる小川で食材を洗い、水に浸したお米を火にかける。その横ではゴソという長めに火を入れないと固い根菜を煮始める。
鹿肉はクセのある印象があるかもしれないが、血抜きなどの処理を正しく行なえば臭みは全く気にならない。
脂身は少ないが、柔らかく栄養価も高い。牛肉みたいな感じだ。
干し肉にするとまた違うが、これはこれで割といける。
今回使う干し肉は年単位で保存可能なカピカピのではなく、薄く切れば生ハムのような半干し肉状態のものだ。
肉を一口大に切り分け、半分をゴソの入った鍋の中に投入し煮込む。もう半分は塩を振って串焼きにする。
まるで俺が調理してるみたいに言ってるけど、実際その通りである。
二週間前から料理の主導権は俺に移ってていた。
父さんの料理が美味しくないわけじゃない。
ただ、基本ザックリでワンパターンなのだ。
ちょっと工夫してみたくもなる。
あの件以来、もう今更かな!という心境で自重はどっかに置いてきていた。
痛みが強くなっている尾を気にしながら、切り株に腰を下ろす。
炊き上がったご飯とスープをよそい、こっそり「いただきます」をした。
串焼きからは香ばしい匂いが漂っていた。
肉の匂いにつられて野生動物が寄ってくるんじゃないかと思うかもしれないが、家を中心にして小川を含む半径50mには敷設式の結界が張ってあるので問題ない。
ゴソと鹿肉のスープは特に味付けはしてないが、干し肉から塩味と旨味が滲み出ていた。
串焼きは爽やかな酸味のある木の実を搾ってかける。鹿肉はあっさりした味付けのが合うのだ。(あくまで俺一人の意見だけど)そのまま食べてもいいし、ケッパで包んでも美味しい。
「シオ。お前防御魔術と補助魔術は練習してたが、攻撃魔術はしてなかったんだよな?」
串焼き二口目を飲み込んでから、父さんが口を開いた。
補助魔術とは攻撃にも防御にも分類されない魔術のことで、以前使おうとした【跳躍】もそれに当たる。
「うん。防御魔術すら発動できないのに攻撃魔術をいきなりやったら危ないかと思って」
本当は攻撃魔術だと目立って父さんにバレる可能性が高いと思ったのもあるんだが。
「そうか。それは良い判断だったけど、おそらく攻撃魔術なら使えてたぞ」
「えっ!どいうこと?」
基本的に攻撃魔術のが難易度が高いって魔術書にも書いてあったのに。
「防御魔術や補助魔術の魔法陣には一定以上の魔力を注いでも発動しないんだ。防御魔術の場合は術によって強度の限界があるから、限界を越えて魔力を供給しても意味がない。補助魔術は元々魔力の量にあまり左右されない」
そして余分に魔力を注ぎ過ぎると、行き場を無くした魔力のせいで魔法陣は瓦解する。
「だが、攻撃魔術は限界値がない。魔力を注げば注ぐだけ強力になる」
魔術を使えなかった理由が魔力が多過ぎるからって……
俺の時間と努力はなんだったんや。
あまりに魔術が発動できないから、魔術の理解が浅いんだと思って魔法陣ノートまで作ったのに。魔法陣解説書みたいなのができちゃったのに。
まぁ知らずに莫大な魔力で攻撃魔術使って家破壊しなくて良かったけど。
予定通り午後から魔術の練習が始まった。
気のせいか耳と尻尾が熱を持っている気がする。いや、今日はいつもより暑いし熱を発散しやすいように獣毛の生えている部分に集まってるのかも。よく分からんけど。
魔術を発動する際重要となる「展開」と「転写」という仕組みがある。
展開は魔法陣を描き完成させ、いつでも発動できる状態。転写は「展開」した魔法陣を指定した場所に複写すること。
魔術は魔法陣からしか発動されない。例えば炎の槍を形成して飛ばす【炎練槍】の場合、炎の槍は魔法陣を起点としてしか発射されない。発射地点を指定したいなら「転写」する必要がある。
転写を行う場合、展開から転写の過程でタイムラグが生じてしまう。
短くすることはできてもゼロにはできない。
また、視認できる範囲に限られる。視認出来たとしても距離が遠くなる程難しくなる。
その代わり魔法陣を拡大して効果範囲を広げたり、複数転写してあらゆる角度から発動できる。
父さんに展開から発動の流れを質問され、ここまで説明し終えた。
「うーん」
「えっ何?どこか間違ってた?」
「いや、完璧すぎて教えることがないな。父さんつまらん」
なんかこの人偶にガキっぽいよな…
それにしても、やっぱ体調おかしいのかも。
「じゃあまずは攻撃魔術からやって・・・・・・・・・」
なんか急にボーっとしてきた・・・・・・
視界が歪む。
「・・・でコツを掴んでから・・・・・・シオ?どうかしたか?」
あ・・・やばいな・・・・・・急に体が重くな・・・・・・・・・
「シオ?シオ!?」
その言葉を最後に俺は意識を手放した。
・・・・・・ウ
・・・・・・ョウ
「ショウ!」
あれ・・・?凛とした涼やかな声。
絵梨の声だ。
「何ぼーっとしてるの?」
彼女は真新しい高校の制服に身を包んでいる。
ああ・・・そういえばあの時初めて見たブレザー姿にみとれて一瞬固まったっけ。
ポニーテールが懐かしい。バレーボール部に入ってすぐにショートにしてしまったのだ。それはそれで似合ってたけど。
初めて出会ってしばらくすると言葉遣いが柔らかくなり、この時にはもう年相応の喋り方になっていた。
あれは早すぎる中二病だったんだろうか?本人に言ったら怒られそうだ。
「もう行かないと遅刻しちゃうよー」
「え?ああ」
「ぷっ。ちょっとショウ後ろ盛大にはねてるよ」
「えっマジで?どこ?」
寝癖を探る俺の手に絵梨の手が添えられる。
「そこじゃなくて・・・ここだよ」
・・・心臓に悪い。
焼け野原の戦場で馬に跨った青年を先頭に勝者が行進する。
俺はその青年の隣で騎乗している馬の頭を撫でている。
ふと青年がこちらを見て
「叔父上」
と呼びかけた。
俺は小国の王弟で、彼は王の長男。俺にとっては甥にあたる。
「叔父上。帰りましょうか」
俺は目を合わせて頷いた。
「あなたーお昼にしましょー」
畑を耕す夫を大声で呼ぶ。
「ああ すぐ行くー」
「ほら。あなた達も手伝って」
かわいい娘と息子はそろって「はーい」と返事をする。
・・・間違ってないよ?
私が産んだんですよ・・・・・・
前世。前世ですから。
他にも今まで夢で見てきた前世が思い出される。今までよりもはっきりと。
でもこれ走馬灯っぽくないか?
前世まで遡る走馬灯なんて聞いたことないんだけど。
最後の・・・いや、はじまりの前世は、夢でも見たことないものだった。
身体は埃まみれ、服もあちこち破れた一枚の薄布を適当に巻きつけているだけ。
両足には鉄の輪。左右は鎖で繋がれている。
貧民街の住人以下の、家畜。
失敗すれば蹴られ、殴られ、機嫌が悪くても八つ当たりをされる。何もなくても生のじゃがいもをかじるだけの食事しかとれない。
道行く人々は見て見ぬふり。関わらないのが一番だから。この世界では日常だから。
こっちだって他人のことはどうでもいい。他人のことを考える余裕なんてあるわけない。
どうでもいい。そのはずだったのに。
突如目の前で砂が舞い、塊が吐き出される。
見たこともない、それでも上等だと分かる衣服を纏った女性。
彼女は座り込んだままキョロキョロあたりを見回して、ひどく困惑しているのが見て取れた。
しばらくして俺に目を留めた。
大きく目を見開き、心底驚いているのが分かる。
初めての反応だった。ただ、それだけ。
久しぶりに人から関心を持たれたことが嬉しかった?
まだ自分は壊れていないと信じたかった?
気づけば彼女に声をかけていた。
俺が言うのもおかしいセリフを。
「あの・・・お姉さん大丈夫?」
* * *
目が覚めると、すでに日付は変わっていた。外はまだ仄暗い。
とりあえず死んでないらしい。
熱っぽさもない。
耳と尻尾の痛みも・・・あれ?痛みがなくなったていうより感覚が無い?
そんな馬鹿な。
恐る恐る頭上に手を伸ばす。
いつもなら柔らかい獣毛に触れるはず。しかし手のひらは空を掻いて濡れ羽色の髪に触れた。
あれ?
しっぽにも手を伸ばす。
やっぱり「ない」よな・・・・・・
いや、寝ぼけてんのかも。
・・・・・・うん。寝よ。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
→次話「獣人の秘密」




