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番外編2

 ある晩の事。

 宿題をしていると、自室の扉が勢い良く開け放たれた。

 そして……、

「りゅー君!」

 姉は叫び、俺の元へと近づいてきた。

「今夜、一緒に寝よう! イヤらしい意味ではなくて」

 急にどうしたんだと訊いてみると、

「いや、実はね……」

 彼女が懐から取り出したのは一枚のDVDだった。

「この、ホッケーマスクを被った長髪の男がテレビの中から出てきて主人公達を悪夢の世界に引き釣り込んで殺人鬼の魂が乗り移った人形やウィルスゾンビやらと共に襲いかかって恐怖のドン底に叩き落すホラー映画を観たら、とても一人では眠れない状況になりました」

 そう言って恐怖でガクガクと体を震わせている。

「その映画、色々と混ざってない? ってか、怖いなら観なきゃいいのに」

「だって……主人公の相棒役の俳優が、りゅー君そっくりだったから、つい見入っちゃって。主人公を庇ってゾンビの群れに消えていく姿は感動的だったわ……」

 ホロリと涙を流す姉だった。

 しかし、自分に似た登場人物がゾンビの餌食になるのは、あまりいい気分ではない。

 俺は一度息を吐いた。

「しゃーないな。とっとと布団持ってこい」

「え、同じベッドじゃないの!?」

 意外そうな顔をする姉。

「当たり前だろ、ベッドは一人用だぞ。二人で寝たら狭くてしょうがないよ」

「そこはさ、密着してる感じを楽しみながら……ハァハァ」

「興奮すんな」

 脳天に素早く手刀を叩き込む。

「あいでっ」


 そして……


「えへへ~。久しぶりだね一緒に寝るの。小学校の時以来かな?」

 ベッドの横に並べられた布団にくるまりながら姉が訊いてきた。

「多分な。ほら寝るぞ」

「うん、おやすみ」

 そう言って、それぞれ布団を被った。

 静寂が部屋中を満たして、しばらく時間が経った頃……

「ねぇ、寝た? 寝た?」

「姉さん、修学旅行じゃないんだから」

「寝付けないから何か話をしようよ」

「明日も学校があるんだから、もう寝ろよ」

「ひどい! 恐怖で震える私を放っといて、りゅー君は夢の世界へ行くのね」

 シクシクと泣き始める姉。

「……」

 が、俺はそんなの知ったことではない。

「無視か! 姉が泣いているのに無視か!」

「どうせ嘘泣きだろ」

「チッ、バレたか」

 さっさと寝てしまおうと目を瞑る。だが、

「……」

「ついに鬼を懲らしめることができました。

 桃太郎一行は奪われた宝物を荷車に乗せて、お爺さんとお婆さんが待っている村へと帰って行きました。

 そして人々は幸せな生活を送りましたとさ。

 しかし……

『鬼……うっ……』

 愛する者を手にかけてしまった後に残ったのは悲しみだけ。

 例え世の中が平和になろうとも、桃太郎の心にはそれが暗い影となって残り続けるのです。

 めでたしめでたし」

「めでたくねーよ! 悲劇だよ!」

「浦島太郎は玉手箱を開けようとしましたが紐がガチガチに締められていたので諦めました。

 仕方がないので浦島太郎は玉手箱をリサイクルショップに売り飛ばしました。千円で売れました。

 帰りにコンビニに寄って玉手箱を売ったお金で缶ビール一本とスルメを買いました。

 そして、ひとっ風呂浴びてから、◯曜から夜ふかしを観ながら晩酌をしました。

 めでたしめでたし」

「時代設定がおかしい! あと玉手箱、安!」

「金太郎は熊と相撲をとって勝ちました。

 ですが、この勝利の裏には金銭のやりとりがあったのです。所謂、八百長です。

 この事実が明るみになったことで源頼光の家来になる話はご破算となりました。

 その後、成長した金太郎は山奥で木こりの仕事に就いていました。

 そんな彼が、うっかり仕事道具のまさかりを近くの泉に落としてしまったところ、泉から女神様が現れるのですが、それはまた別の話……」

「だよね! 子供の時から薄々は気付いてたよ、人間が熊とガチで相撲とって勝てるわけないよね! ってか、なんか違う話混じってた!」

 昔話のまさかの展開にツッコまずにはいられなかった。

「あとね、かぐや姫と一寸法師もあるけど聞く?」

「もう、ええわ!」

 漫才のシメのようなツッコミをして、姉を追い出した。

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