第3話その2
朝食を終え、父と義母はデート、姉は本屋へと出かけていった。
俺は特にすることもないのでリビングでソファにゆったりともたれかかり、アイドルなのか農家なのか開拓者なのかマルチ過ぎて本業が何なのかよく分からない人が司会者の情報番組を観ている。
そういえばこの司会者、若く見えるが年齢的にはオジサンだよな。でも、そんなことを言ったらリーダーの方が……などと頭の中で呟いていると、
「ふわぁ……」
欠伸をしながら義姉が現れた。
「義姉さん、今頃起きたんですか。もう十時近いですよ」
一緒に暮らし始めて分かったことだが、休日の義姉は起きるのが遅い。
「だって休日くらいゆっくり眠っていたいものだろう?」
「まぁ確かにそうですけど、生徒の模範たる生徒会長が気を抜きすぎなのでは?」
「生徒会長とて人の子さ」
義姉は辺りを見回して、
「あら、君と私だけか」
「えぇ、三人共、出かけて行きましたよ」
そうか、と言って義姉は俺の右隣に座った。ソファは三人がけなのでスペースに余裕があるはずなのに必要以上に密着している。
「義姉さん、離れてくれませんか?」
「美月がいると、こういうことは中々出来ないからね」
俺の右手に彼女の指が絡まり、ほんのりと体温が伝わってくる。
高鳴りが徐々に激しくなっていく。思わず生唾を飲み下し、息を一つ吐いた。
どうも俺は「美女と二人っきり」というシチュエーションに弱いということを再確認。
かっと顔が熱くなるのを感じた次の瞬間。
「!!」
「こんな事もしてみたり」
義姉はこちらを向いて膝の上に座ってきた。
完全に油断していたため、ドキリと心臓が破裂しそうだった。
「あわわわわわわわ!」
「フフッ、反応が可愛いな。抱きしめたくなっちゃうじゃないか」
潰れそうなほど愛情たっぷりに抱きしめられた。
混乱。脳がオーバーヒートを起こし、思考も行動もままならない。
気絶しないのが不思議なくらいだ。
「次は、ちょっとエッチな事をしてみようかな」
すると義姉は俺の服を肌蹴させ……、
「何を……あうっ!」
「どうだい、気持ちいいだろう?」
舌のざらついた感触と唾液のぬめりが皮膚に纏わりつく。
舐めている。首筋を舐めている。
どこでこんな技を覚えてきたのか、緩急をつけた舌の動きは的確に俺の快感を引き出している。
「ふむ、これが君の味か……悪くない」
「や、やめ……」
しかし義姉は舐めるのを止めない。
より強く、より官能的に舌を動かし『獲物』を味わっている。
やがて昂りが俺の中の獣欲を刺激し、ある一点を天高く突き上げ……、
「駄目だあああああああああ!!」
させる前に逃げた。脱兎の如く。
女性経験のない俺には刺激が強すぎた。
自室のベッドの上で、さながら胎児の如くうずくまって興奮が収まるのを待つ。
すると程なくして、
「少々やり過ぎたみたいだね」
声のする方を向くと、義姉が何の断りもなく入室していた。
彼女は、ゆったりとした歩調でベッドまで歩み寄ってきて、俺と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「少々どころの騒ぎじゃないですよ。いきなりあんな……」
また顔が発熱するのを感じた。
「ハハッ、ごめんよ」
と義姉は笑った。親にこっ酷く叱られたが、あまり反省してなさそうな悪戯っ子のような表情と声音だった。
「二度とあんな事しないでくださいよ」
「却下」
コンマ数秒で拒否されてしまった。速い、そして酷い。
「それじゃ俺の精神が保ちません」
「要求は飲めない」
「ほんと頼みますから、やめてください。マジで」
「では、この滾る劣情をどう処理すればいいんだ!?」
と義姉は芝居がかった口調で問うてきた。
しかし、自分以外のシモの事情なんぞ俺が知ったことじゃない。
「自分でなんとかしてください!」
「そうか……しょうがない」
もっと揉めるだろうと予想していたが、あっさり引き下がったな。
……と思っていたら、
「では、この隠し撮りした『君の写真』で……」
何故か義姉の手には俺のシャワーシーンを写した写真が。
そういえば先日、シャワー中に視線のようなものを感じたが、あれはどこかにカメラが仕掛けられていたのか。
俺のプライバシー……行方不明。
「アンタもか! アンタも俺をオカズにするのか! ってか盗撮すんな!」
「姉が愛する弟でナニをするのは常識だろ?」
「そんな常識、滅んでしまえ!!」
「あっ」
俺は思わずベッドから飛び出し、写真を奪い取って破り捨てた。細かく念入りに。
それを義姉は名残惜しそうに見つめ、若干、涙目になりながら「なんということを……」と悲しげに呟いた。
どうやら義姉は龍野美月に毒されてしまったらしい。
その後、浴室の片隅で巧妙にカムフラージュされた防水仕様のデジタルカメラを発見。
一応、中身を確認すると俺の裸体が克明に記録されており、恥ずかしさを通り越して「よく気づかれずにここまで撮れたな」と感心してしまった。
当然データは完全に消去。他にも設置されている可能性を考えて家中を一斉点検していたら、その日一日が終わってしまった。