第2話その4
いくらか時が流れ、中間テストが終了した。
結果は恐らく平均点に近いだろう。
まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。
何故なら――
ドンッ! ドドンッ! と開会を告げる花火。会場に響き渡る歓声。
つい始まったのだ。『女神祭』が。
会場中央の巨大モニターが戦いの様子を映し出している。
まずは第一試合。男を捕まえるなら胃袋からということで『料理対決』だ。
何故かスリーポイントシュートを決めた数だけ希望の食材が手に入る前半パートと料理の後半パートに分かれていた。
審査員は俺の他に、教師と生徒が数名ずつ参加。
結果は僅差で姉が勝利した。
第二試合は、色気で男を惑わせろということで『水着対決』だ。
姉が際どいビキニで挑むのに対し、先輩はクールなデザインの競泳水着で現れた。
甲乙つけ難い美しさであったが、これも僅かな差で、先輩が勝利を収めた。
「ってか、なんでダイジェスト?」
と、江口は疑問を投げかける。
それに対して氷室が答えた。
「仕方ないだろ。文才が未熟な作者が無理して書いたんだから」
「んな身も蓋もない言い方……」
ここまで一対一の同点。全ては第三試合で決まる。
その内容は……。
ゴングの甲高い金属音が鳴り響いた。
「りゅー君は私のモノだぁぁぁ!!」
「ふん、愛しい彼を渡しはしないよ!!」
素早く突き出される拳。瞬時に繰り出される蹴り。
リングの上で二人の女が戦っている。
――愛する人を守れる腕っ節の強さを見せる『格闘対決』
時間無制限の一本勝負。どちらかがノックアウトするか、負けを認めるまで戦いは終わらない。
試合が始まって数十分。飛び散った汗がマットを濡らし、二人の顔や体についた傷がこの戦いの激しさを物語っている。
「ハァッ!」
「グ……ッ」
姉が先輩の踵落としを、交差させた両腕でガードした。が、汗で足を滑らせ倒れてしまう。
すかさず先輩はマウントポジションを取り、パンチの連打を放つ。それを姉は必死になってブリッジで脱出。
今度は姉から仕掛けてきた。先輩の背後へと回りこみ、ジャーマンスープレックスを放った。押し寄せる衝撃が先輩に苦悶の表情を浮かばせる。
一進一退の攻防。徐々に疲労が蓄積し、動きが鈍りだす。
距離を開け、構える二人。正対する両者の形相は鬼気迫るものがあった。炎と化した闘志を再び見たような気がした。
「お互い、そろそろ限界のようだね……」
「そ、そうね……」
「じゃぁ、次で決めようか!」
「ええ!」
最後の力を振り絞り、気合の叫びと共に渾身の一撃を放つ二人。
拳が互いの顔面を狙い、腕が交差し、そして……。
「グ、ファッ!」
「ハウ……グッ!」
同時に攻撃が決まる。二人同時にその場に崩れ去った。気を失ったようだ。
その瞬間、歓声とも怒号ともつかない多くの声が湧き上がった。
総合成績・一勝一敗一分。ドローである。
医務室。
ベッドが二つ並んでおり、俺はその間に椅子を置いて腰掛けている。
包帯や絆創膏だらけの姉と先輩はベッドの上で、
「で、引き分けの場合はどうする?」
「そうだね……引き分けは想定していなかったからな……」
勝負事なのだから、そういうことは予め決めておくべきではなかろうか。
と、黙考する二人を見ながら思った。
考えた末に最初に口を開いたのは姉だった。
「三人でデートってことでいいんじゃない?」
「それが良いかもしれないね。私も美月も幸せになれるし、再戦するにしても、また会場をおさえないといけないから面倒だし」
「あの……」
俺の声に振り向く二人。
「なに? りゅー君」
「遠慮せずに言ってごらん」
「……何もしないっていうのは無しですか?」
俺が発言に、ずいと二人の美女の顔が近づけられる。
「嫌なの?」
「自分で言うのも何だが、美女二人とデートが出来るんだよ? 健全な男子として嬉しくないのかい?」
「そ、そりゃ悪い気はしませんけど……でも、それだと今までの戦いは何だったのか。意味が無いような気が」
すると先輩はふっ、と微笑みを浮かべた。
「そんな細かいことは気にするもんじゃないよ」
「そうだよ、りゅー君。楽しければよかろうなのだ!」
滅茶苦茶だ。俺の口から「えー」という、か細い声のような音のようなものが漏れた。
その時、メロディが流れた。俺の携帯電話の着信に使っている曲だ。
ズボンのポケットにしまっておいた携帯電話を取り出し、画面表示を確認。
父からの電話だ。通話ボタンを押し、電話に出る時の定型文を口にする。
「もしもし」
『おお、流斗。相変わらずエロいこと考えてるのか? ガハハハハハ!』
「実の息子に言うセリフじゃないな、それ。で、何の用?」
『いや実はな、重大なお知らせがあるんだ。内緒にしていたわけじゃないんだが、言いそびれてな……タイミングがかなりギリギリになった』
タイミングやギリギリという言葉に多少の引っ掛かりを感じたが、そのまま聞いた。
『よぉーく聞けよ。実はな……』
数秒の間が異様に長く感じられる。まるで一千万円獲得を目指すクイズ番組の、某司会者のタメのような感覚。
そして、その異様な時間の流れの後、父の口から言葉が発せられる。
『父さん再婚することになったから。よろしく』
それだけ言うと一方的に通話が切られた。
俺の口から「え―――!!!」という絶叫が吐き出された。