7、
「はいはい。桃ちゃんとのサービストークは終了で~す」
さ、サービス……。
梨花は桃をまるでアイドル扱いだ。そして、孝明は奴隷扱い。
この温度差は一体なんだというのであろうか。いや、考えたくもない。
「え? わ、わたしもっと話したい」
「ごめんね。桃ちゃん。今度はわたしに代わってほしいな」
え? そ、それって、もしかして――そ、そういうことですか!?
「勘違いおーけーですが、残念ながらお説教です」
孝明の胸の内を見透かしたかのように澄んだ瞳でやや微笑しながら孝明の顔を見る。
「お、おせっ、きょう?」
「はい。お説教です!」
すごく――怖い。その笑顔の裏にどす黒さがにじみ出ていた。
「な、なっちゃん。このくらいにしないと……孝明が」
「いいえ! 足りません! 全く持って足りません!」
「なっちゃん……」
「下手をすればこの場所がばれていたのかもしれないんです! わかっているのですか!? 孝明くん!」
「は、はは~~~~~」
「むむうっ。……わかればいいのです。わたしも少々言い過ぎました。すみません」
第一そこまで気が回せるような状態ではなかった。生き延びるのに必死すぎて他人のことまで考えることなどできない。
それでもまあ……。多少は反省してもいいとは思う。
「――なっちゃん!」
そして、美少女たちは固く抱擁しあった。
「ももちゃんっ、もう、ももちゃん♪ ふふ~ん。ももちゃん♪。も~かわいい。キャハ」
「なっちゃん♪」
「……」
完全に二人の世界だ。孝明の入る余地はない。
しばらくすると、一時限目の始めるチャイムがなる。
「やばっ、授業に遅れた!」
「? なにをいっているのですか?」
なにをって、授業に遅れたって言ったんですけど……。
「その顔はなんのこと? って感じですね」
「どういうことだ? 梨花」
はぁ~。と軽くため息をついた後、梨花はいやいやな感じで言い始める。
「このランキングで一位になった人にはそれなりの特典が設けられるのです。いや、なってしまった、ですね。まあ、そういう細かいことはなしにしましょう。で、何を言いたいのかというとそれは――」
ごっくん。別に張りつめた空気にもなっていないが孝明の気の弱い部分を刺激するには十分だ。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫です。ただ、ランキング一位、もしくわ、上位に入った人たちはこれからの学園生活に支障がでるという配慮で授業への参加免除が与えられるだけです」
「じゅ、じゅぎょう、めんじょ?」
「同じことを二回言わせないでください。お金とりますよ?」
「なんでだよ!」
やばい。完全に蒙洋梨花さんのペースだ。おっと、まずい。睨まれた。
「冗談です」
「心臓に悪い冗談はやめてほしいです」
「あら、こんな美少女二人と話せているだけで寿命は延びるはずですが?」
「はい!? ――はぃいいい!?」
つっこみすらままならないほどの追加攻撃が孝明を襲う。
そんなことはどうでもいい。それより、おかしな点が多すぎる。
ここは私立校。そんな簡単に授業免除とはいかないはずだ。将来がかかっているこの時期にそんな投げやりな姿勢はおかしい。いくらランキング掲示板に挙げられたことが将来の自分だとしても周りが納得するわけがない。
「その顔だと、いろいろと不満を抱えているご様子で」
「ああ」
孝明は素直に返答する。
「わたしもこの制度については納得できないことだけは孝明君と同じです。しかし、生徒手帳を見てください」
梨花にそう言われ、孝明は自分の生徒手帳を見る。すると、第二十三条にこのランキングについて書かれてあった。
――このランキング制度を実施することにより、ご父兄の経済的負担を大幅削減、かつ、これは教育委員会でも可の出ている条ゆえ、一切の苦情は認められない。
そして、その後は第二十四条で授業免除について書かれてある。
「経済的負担……」
孝明がここを志願した理由は家からも近いという理由以外になかなかの名門校だからである。
「どうしたのですか?」
「……」
一瞬、孝明の思考が斜め右へとずれる。
孝明の家は共働きだが決して貧しいわけではない。むしろ、孝明自身不自由をしないくらいは裕福だ。
もしかすると、すべて自分の考えがあまいのだろうか。孝明はそんなことを思ってしまう。よくよく考えれば、父も母もいわば出稼ぎ状態だということはないのであろうか? 不安が孝明を押しつぶそうとする。そして、追い打ちのように槍の雨が孝明を襲う。
「えっと、孝明くんのランキングは――ぷっ、そうでした。自画自賛でしたね」
「ど、どこが自画自賛!? 今、すごく、大変でつらいんだけど!」
「そこが自画自賛なんですよ。どうせ、孝明くんの授業免除執行猶予期間は一年間なんですから。素直に喜ぶべきでは? そんな、いかにも自分だけつらいですよオーラを出されても・・・・・困ります」
ひ、ひどい言われようだ。