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4、

 そんな孝明の思いとは裏腹に梨花は孝明に一つのアイテムを授けてくる。


「これ、ここの部屋の鍵です。休憩時間は必ずここで退避してください。一週間もすればあのランキングのおとぼりも覚めるでしょう」


「あ、ありがとう」


「うん。素直でよろしいです」


 梨花が満面の笑みを俺に向けてくる。しかし、疑問はいろいろと出てくる。


「一つ、聞かせてくれ。なぜ俺はここに呼ばれた?」


 そういうと、梨花は瞳を丸くして「あら、言ってなかったんですか?」と桃に聞く。


「で、なぜだ?」


「ここはランキング上位者の身を守る空間なのです。まあ、さっきも言いましたが隠れ教室です。私もここは先輩から教わり、そして、伝統を引き継いだのです」


「でんとう?」


「ええ。ここはいわば、ランキング上位に入ってしまい、学園生活がエンジョイできない人たちのための空間、私はここをこう呼びます。――ゴットハウス。神の部屋と」 


 ご、ごっとはうす……か、かみのへや。


「ちゅ、中二病かっ!」


「いいんです! 私は部長なんですから!」


 部長とは言え、現実と非現実とぐらいは区別してもらわないと困る。ましてや、部長がそんなことを言うと、部員は苦笑いするしかないのではないだろうか。っと、その前に部長だったのですか。


「ん、でも梨花も一年なんだろ?」 


「わたしは、中等部から上がってきたので」


 ということは梨花は少なくとも中学時代からここで……。


「それじゃあ、お前中学の時から、今の俺みたいな立場に?」


 あまり聞いてはいけないきがしたが咄嗟に聞いていた。


「わたしたち、です」


 わたしたち、ということは桃も……。それがどれだけつらかったことか今の孝明には到底理解できるわけがないが、今の二人の顔を見れば少しはわかる。しかし、孝明はそんな二人の顔を見ていられず、思わず顔をそむける。そんな孝明の態度に梨花も桃も気づいたに違いない。


「なっちゃん。結局、どうするの?」


 話を進めようとする桃。


「そうですね。森孝明くんを私たちの部、ゴット部に勧誘しましょう」


 やった。と桃が喜ぶ。そんな桃の表情を見て梨花も微笑む。


「こ、この流れは……」


 入部決定、らしい。だが、生き残るためにもとりあえず桃たちの部活に拾ってもらった方がいいだろう。


「わかった。入部する」


「やった~。孝明とまた一緒♪」


 そういいながら、桃は梨花に抱きつく。そして、短身な桃でも女の子からしたらそれなりの勢いもある。


「きゃっ!」


 ドテ~ン


 そうだいに二人がこけた。


「ご、ごめん。なっちゃん」


「いいの。それより孝明くん、ももちゃんとのスキンシップは禁止ですっ」


「な、なんで!?」


 と、言ってきたのは孝明ではなく桃だ。まあそんなことしないけど……。


「ん?」


 孝明は足のすぐそばに何かを見つけた。


 女子二人が戯れている間に孝明はその何かをゆっくりと拾い上げる。すると……どうやら、梨花か桃の手帳のようだ。二人にそっと返すため、孝明は手帳の持ち虫の名前を探した。


「えっと、……もうよう、」


「そ、それは! あああああ! 読まないで~~~~~」


 そこには孝明がつい最近知り合ったはずの人なの、に…………なぜか一瞬だけ考え込んでいた。


「もうよう、なしか?」


 その手帳には蒙洋梨花もうようなしかと書いてある。ただ、読み方を変えれば梨花りかとも読める。


「うっ! み、みみ見ちゃいましたね」


「え、えっと、もうよう、なしか、さん?」


「なんですか? 孝明くん? てか、見ちゃったんですね……」


 なんですか? と返されてしまった。見ちゃったんですねって返されてしまった……。


「え、えっと――」


 蒙洋梨花さんの背後からどす黒いオーラを確認。


「――殺します」


「ちょっと待って! おかしいよ! 蒙洋梨花さん!」


「んぎゃああああ! わたしの名前と苗字をつなげて読まないで~~~~」


 孝明は梨花が何に対して悲鳴を上げているかを探る。梨花は今、苗字と名前を――と言っていた。孝明はとりあえず、この身分詐称の疑いのある少女の苗字と名前を心の中で読み上げていく。


 もうようなしか。も、うようなしか。もう、ようなしか。もうよ、なしか――――。


(ん? もう、ような……)


 孝明は理解した。もう、ようなし、か。これだ。これに間違いない。しかし、孝明はこれだけでは何にも解決しないと思い、すぐさま、新たな解決策を探す。


 答えは案外と早く出た。すごい不純な動機で言ってしまったら桃にタコ殴りされること間違いないだろう。


「何を言っているんだ! 洋ナシ! すんごくおしいじゃないか!」


 そういうと、ピクンッ! 蒙洋梨花さんの体が微小だか動いた。


 孝明は瞬時にいけると判断。


「ナシ、俺、すげ~すきだな~。あのシャキッとした触感からでてくる甘い蜜。もう最高! あの皮の渋さもアクセントでいい! あ~、もうナシ最高! 大好き!」


「……だいす、き?」


「う、うん! もう、さいっこうだよ!」


「……」


 孝明のストレートなべた褒めに蒙洋梨花さんは……顔を真っ赤にして体をもじもじさせて、恥ずかしがっているようにも見えるがここは怒ってらっしゃるのかもしれない。


「あ、あの~」


「わ、わたし! 好きっていわれたの、初めてです」


「そ、そうなの? 俺はすごく好きだよ? ナシ」


「はううう」


 顔をますます赤らめる蒙洋梨花さん。


「あ、あの~。もう怒っていませんか? てか、あなたの名前、おいしそうでいい名前だと思いますよ?」


「ほ、ほんとに?」


「ほんとに」


「苗字と名前、つなげたら、もう、ようなし、かってなりますよ?」


「それ、明らかに区切ってますよね? 区切らなければいいじゃん。梨花とかナシとか。ね? 可愛い名前だと思うんだけどな~。あはははは」


「は、はぅうう~~」


 可愛いうなり声のようにも聞こえるが、もしかすると、まだ怒っているのかもしれない。


 しかし、そんな思いは奇異だったらしく。


「あ、ありがと、ございます。……すごく、うれしい、です」


「あははは~」


 これで一軒落着と、思いきや、今度はとなりで桃缶が吠えてきた。そして、そんななにも語ってはいないが十年ぶりの桃との再会は終わった。


「あ、でもやっぱり、これからもりかでお願いします」


 梨花りかもなんとか納得してくれ、無事、今日を終えれそうだ。


 しかし、孝明は明日からの学園生活がどうなるか行き先不安な思いで心中いっぱいだった。後、もう一つは、ゴット部の存在である。あの後、こっそり、先生に聞いてみたところ、実際に存在していたらしい。活動目的はエンジョイ……。部活になったのは最近みたいだが、あの怪しげな部屋はあのランキングができたころから生徒会が極秘に用意したランキング上位者だけが知りうる場所となっているという。


 そう、あの場所を知っている学園の生徒は今のところ、孝明、桃、梨花、そして、生徒会の三名だけとなっている。


「これは、重大な秘密を知ってしまった……はぁ」


 つい、溜息を漏らしてしまった孝明であった。


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