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3、

 そう、誰とも知れない声が聞こえてきた。聞き覚えはある。美しい声だったのだから。


 しかし、この空間が孝明の思考のすべてを無とかしてしまったのだ。



「え、こ、ここって……教室?」


 そう、そこは教室。あの隠し扉の向こう側には教卓だけが置いてある殺風景な教室が待ち構えていた。


「なっちゃん! うぇえええん! たかあき! 死ね! うぇえええん」


「どうしたの? ん? そうなの? ひどい。最悪ですね。真自童貞野郎の鬼畜野郎ですね。うん。うん。あんなやつ、放っておいてわたしと幸せになろ。ね?」


 孝明をよそに美しい声の持ち主と桃が抱擁しあっている。


 ……なんなんだこいつら。


 孝明の想いは間違いなくそう思っているに違いない。だが、その時は自分ですら自分の想い、考えをシャットダウンしてしまっていた。


「あの~。助けてもらったのはいいんですが、先輩、ですねよ? まあ、取りあえず、ありがとうございます」


 我に返り、孝明はまず助けてもらったお礼をする。


「お礼なんていらない。あなたは邪魔だから出て行っていいですよ? ついでにわたしも一年です」


「……ご、ご冗談」

 え、一年!? 美人すぎるだろ! と大声をはってもいいくらいの衝撃だった。


 清楚できれいなお姉さん。黒髪ロングヘアーのきれいなお姉さん。足が長くてきれないなお姉さん。


 今、孝明の目の前にいるその人はドストライクと断言していいほど孝明の心を一瞬で奪う。しかし、なぜだろうか。孝明の思いは素直にそのきれいな同級生に向かない。身体が拒否反応を起こしているかのように一歩踏み出すのをためらう。


 一体、それはなんなのか。


 そして、そんな疑問は以外にも早い段階で気づけた。


「き、気持ち悪い顔でわたしたちを見ないでください!」


 これだ。


 間違いない。これが原因だ。この初対面にもかかわらず、この罵声の浴びせ方。なんのまよいのないストレートな言動。本当に気持ち悪いものを見ているような瞳、まさしくこれらすべてだ。


「み、見てねえよ! それに、今出たら俺死ぬじゃん! 第一、あんただろ? 死の淵から生還、おめでとうございます。って言ったの! 歓迎ってことだろ!」


「……そ、それは、確かにそうですけど……まさかももちゃんがここまでとは思わなかったから――」


 さっきから何を言っているのであろうか。確かにタイプだが、妄想壁があるのはちょっと勘弁したいところである。


「とりあえず、しばらくかくまってくれ。俺は森孝明。よろしく」


「……」


「名前すら教えてくれないの!?」


「あなたに名乗る名はありません。――と思いましたが、いいでしょう。蒙洋梨花もうようりかです。よろしくおねがいします」


 蒙洋梨花さんか……いい響きだ。


「蒙洋さんたちはなんでこんなところに?」


「梨花で構いません」


 そう梨花は悠々と言う。


「そう? じゃあ梨花、なんでこんなところに隠し教室があるんだ?」


「……」


「おーい。り~か~さ~ん」


 まるで他人のことかのように梨花は反応をしない。


「あ、は、はい! なんでしょうか?」


 妄想壁どころか人を目の前にして完璧に無視をするという荒技までお持ちのようだ。


「あ、ああ。そうでした。ふ~。やっと話が進めれます」


「なっちゃん、りかってだれ~?」


「ななななな、わ、わたしのほかにだれがいるのですか!」


「え~、なっちゃんはなし――」


「あああああああ! ごっほん! 話を進めます」 


 なんか、いろいろ腑に落ちない。が、ここは話を進めてもらおうと思う。


「え~、ここはいわば隠し教室、隠れ家、アジト――」


 なんとなくそうではないかとは思っていた。ただの壁が扉となって開いたのだから。そして、孝明が気になっているのはそれ以降。なぜ、こんな教室があるのか、もしくは作られたのか。こんな誰もいないような教室など作って何を意味するというのか。孝明の疑問は絶えない。


「以上」


「なんの説明にもなってねえ!」


「じょ、冗談です」


 冗談をいうならもっとユーモアある冗談にしてほしい。


孝明のツッコミレベルが一上がった。


「まあ、ここがどういう場所なのかは置いといて、」


「置いとくのかい!」


 そんな孝明のツッコミをスルーし、梨花は話を続ける。


孝明のツッコミレベルが一ダウンした。


「ええっと、まず、今後の孝明くんの予定を説明します」


 孝明の全身が急遽ぼっとなった瞬間だった。理由はいろいろある。結局、何一つ説明されないことや孝明のことを軽く無視気味なとこ、気持ち悪そうな瞳でこちらをみてくることなどいろいろある、が――。


「俺の予定? 説明してくれよ!」


「……却下」


「うぐっ――って、え!? 今からそのことをいうのでは!?」


「そうですよ?」


「……」


 全く持ってつかめない。何一つ孝明がこの場の空気を握ることができない。すべて梨花に持っていかれるというより、切り裂かれている。


 孝明と梨花の目と目から死闘の火花が散る。


「あ、あれ? あれれ? わたし、蚊帳の外?」


「んんっ! 今度こそ話を続けます」


 孝明は素直に梨花の「今後の俺の予定」とやらを聞く。


 そして、孝明は一瞬こんなことを思った。


 ――今後の予定、わたしの下僕です。


「……」


 そんなことをふと孝明は思ってしまう。そして、孝明は一瞬だけだが、それもいいかもと思ってしまった。


(ば、ばかのか!? 俺は!?)


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