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とある財務大臣の話

おや、もしかして、勇者ですか。申し訳ありませんが、渡した以上の物資は…え?別に物をねだりにきたわけではない、ですか?それに以前、既に受け取った?それはそれは、早とちりしてしまって申し訳ございません。


実はですね、勇者様。勇者様が勇者として旅立った時、我が王から物資を受け取られたでしょう?本当にささやかなものでしたが……。いくらかのゴールドと、薬草一袋、我が国の兵士にも支給している鎧や剣。本当に、勇者様に渡すものとしてはささやかな。それでも、今よりはずっと良いものをお渡しすることができていたのです。

当時はまだそんなにたくさんの勇者がいませんでしたからね。我が国の財政にも多少ゆとりがありまして。とは言いましても、実際当時勇者様はまだレベル1。レベル1の勇者様がどこまでやり遂げることができるか私たちには予想もできませんでした。それこそ、次の日には魔物の手によって…ということも十分に考えられます。

その状況で、あまりにたくさんの物資を複数の勇者に授けてしまえばどうなるでしょう?我が城の金庫は空っぽになり、そして勇者様が受け取られた物資は魔物が手にするか、ハイエナのような連中が勇者様の死体をあさって持っていくか。前者であれば間接的に魔王を支援することになり、後者であれば間接的に強盗やならず者を支援することになります。


ですから、当時レベル1であった勇者様にはわずかな物資しかお渡しできなかったのです。勇者様がこの世にたった一人の勇者で、たった一つの希望であったなら状況も違ったでしょう。それか初めてお会いした時に勇者様が例えば…そうでございますね、レベル20くらいであったら、また違ったのかもしれませんね。厳しいことを言ってしまいますが、勇者様。勇者様が魔王を倒し、生きて帰ってくるという保証はどこにもありませんからね。多くの物資を、国の財政を傾けてまでお渡しするのはリスクが高すぎるのです。


それでも昔はまだようございました。勇者の数が少なかった、と私は言いましたが、それは事実です。昔は今よりずっと勇者の数が少なかったのです。一国に一人もいなかったでしょう。ところが今はどうでしょう。同じ国内にに勇者が複数いることが珍しくない時代でございます。それこそ毎週新しい勇者が我が王に謁見しているくらいです。

昨日なんて、勇者が三人も…。勇者様、考えてもみてください。勇者の数が、例えばですが以前の10倍になったとしましょう。すると単純に10倍の物資が必要になりますよね。そんな物資を出す余裕は我が国にはありません。ただでさえこの国は勇者を支援するために制度を充実させている国で、それにお金がかかりますからね。となると、1人当たりの物資の量を10分の1に減らすしかないじゃありませんか。勇者を支援するために国民を飢え死にさせるわけにはいきませんしね。

だから今はひのきの棒と50ゴールドくらいしか渡せず、それですら財政を圧迫する始末。


それにね、勇者様。国にとって敵というのは魔王だけではないのです。他の国だって敵になりかねない。世の中とは、世界とはそういうものなのです。勇者を支援するために物資をどんどん渡し、その結果国が財政不足に陥ったとしましょう。

当然、軍にまわすお金だって不足し、国は弱体化してしまいます。それを機に、他の国は我が国に戦争をしかけてくることになるかもしれませんね。今は魔王という共通の敵がいることで国同士が団結しているだけ。ほんの少しのバランスでその団結だって崩れてしまいます。現に我が国ですら、他の国が魔王との戦いやその他のことで弱体化していないかを細かく監視し、つけいる隙を探しているくらいですから。それを考えますと、「魔王を倒せば世の中が平和に」なんてことは、幻想なのかもしれませんね…


あぁ、それにしても最近の勇者どもと言ったら…!…私とあろうものが、取り乱してしまって…失礼しました。ですが勇者様、最近の勇者は本当、昔と比べると遠慮というものを知りません。昔はほんの少しのゴールド、ほんの少しのアイテムでも我が王が直々に手渡すというだけで、頭を下げて受け取っていたものです。

ところが今は「え?王様のくせにこんなちょっとしかくれないわけ?マジで?(笑)」なんて、よりにもよって我が王に向かって暴言を…!しかもそれを他の国の勇者に言いふらし、そのせいで「あそこの国は勇者に十分な物資を渡してやれないくらい、貧窮しているらしい」「お城なう。王様からひのきの棒と50ゴールドしかもらえなかった。王様マジ守銭奴」なんて噂が流れる始末。かといって物資を増やせば国の金庫は空っぽに。今や物資目当てでとりあえず勇者を目指す者もいるくらいですからね…本当、頭が痛い話ですよ。


しかもこんなにも財務大臣である私が頭を悩ませているというのに、最近は何故か「大臣は王様を裏切るのがセオリー」だと言われてしまったり、そもそもスポットが当たるのは大臣の中でも王のスケジュールを担当する大臣がほとんどで、私の存在はあまり知られていません。時々思うんです。いっそ国のことなんて綺麗さっぱり忘れてしまい、私自身も勇者として旅立った方が楽なんじゃないだろうかって。最も、実際に勇者になったとしたら、ひのきの棒と50ゴールドだけしかもらえないなんて、とも思いますけどね。

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