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とある医者の話

あー、もう!イライラする!ちょっとそこのアンタ、アンタよアンタ!聞いてくれる?てか聞きなさい。え?酔っ払いの話なんて聞きたくない?失礼ね、まだ大して飲んでないわよ。ほんのちょっとだし、飲んだうちに入らないわよ。

…私ね、こう見えても医者なの。医者よ医者。凄いでしょ。そんじょそこらの、薬草やらハーブやらを煎じてる女たちとは違うの。あいつらは免許も何もないけど、医者は免許がいるんですからね。女医って偉いんだから!


私んちね、結構貧乏な村でさ。その中でもさらに貧乏なわけ。もうやんなっちゃう。どこもかしこもボーロボロ!で、泥にまみれて畑耕したり、薬草を摘みに行ったりするわけ。それでなんとか生きてるのよ。もう本当、貧乏でさ。その日食べる物で精いっぱいだったりすんのよ。

だかりゃ…だから、ほら。例の勇者の支援制度ってやつ?あれにも入れなくってさ。だって数カ月だか1年後かの税金の減額より、今お金がいるんだもん。そもそも貧乏な村だから勇者自体滅多に来ないし、もうどうしようもないって感じだったわけ。実際、大半の村人はそのままどうしようもない感じで生きて、死ぬわけよ。貧乏ってそういうことなの。だってさ、どん底から這い上がるのには運か、金がいるってモンでしょ?


んでね、私には運があったわけ。後実力と美貌ね。あるとき村に旅の医者が来てさ、ボランティアでタダで皆を見てくれて。私思ったわけ。「この人についていけばこの貧乏な村からも抜け出せるし、医者になれば稼げる!」って。やっぱりあれよ、生きていくためには技術が必要よ。特に私みたいな美人はね。と言っても当時はまだガキだったけどさ。で、頼んだわけよ。医者になりたい、つれてってくれって。医者はそりゃあ渋ーい顔をしたもんよ。今思いだしても笑えるわ!けれど、弟子が欲しいって思っていたみたいだし、何よりうちのお母さんが医者を説得してくれてね、ついていくことになったの。


良いお母さんだね?馬鹿、何言ってるのよ。お母さんが医者を説得したのは私のためじゃないわよ。食いぶちが一人減れば、楽になるでしょ?それだけよ。うちは下に弟が3人もいて、でも男はいずれ労働力になるじゃない?大事なわけ。私は女だし、ね。何よ、何暗~い顔してるのよ!アンタも一杯飲みなさいよ。

私ね、別に気にしてないわ。だってあのまま貧乏な村にいたくなかったし、親を捨てて医者についていく気満々だったわけだから結局はお互い様ってやつよ。で、医者の元で医学を学んで、最終的には試験を受けて合格したってわけよ。凄いでしょ。もっと褒めて良いのよ?え?結局この話に美貌が関係ないって?馬鹿ね、女医と言ったら美人、ってのがお約束でしょ。アンタも男なんだからそれくらいわかりなさいよね、ったく。


それでどこまで話したっけ…そうそう、私んちね、結構貧乏な村でさ。その中で…え?その話は聞いた?あぁ、はいはい。試験に合格したところまでね。ヒャック!んー。ん?飲み過ぎてないわよ、酔ってないし私、酔わないもの。それでよ、せっかく医師免許取ってさ、晴れてお医者さんデビューよ。

最初は結構良かったわけ。女医なんてまだまだ珍しいし、村や町には病人がいくらでもいるわけでしょ。奴ら貧乏だけど、それでもそれなりのお金をもらえたわ。金持ち相手だと最高ね。あいつら別に病気でもないくせに何か調子悪いとか、何か飯がまずいとか、どーでもいいことで医者を呼んで、代わりに大金をくれるんだから。楽だし儲かるってわけよ。え?医者として間違ってるって?仕方がないでしょ、生きるためなんだもの。勇者と違って貧乏人は誰も支援してくれないんだから。


んで、さらに良かったのが勇者御一行ね。あいつら馬鹿みたいにモンスターと正面衝突して戦うじゃない?生傷絶えないし、その度に治療費がもらえるわけよ。もう儲かって儲かって。あいつら馬鹿だから、金を稼ぐためにモンスターと戦って、モンスターと戦っては怪我をして帰ってくるじゃない?そして私の懐が潤うってわけよ!


それで何がムカつくのかって?そりゃいっぱいあるわよ!まず白魔道士ね!アンタ知らないかもしれないけど、白魔法って昔はそりゃーレアだったのよ。使えるのはほんの一部、それこそ訓練を受けた白魔道士だけ。訓練を受けられるのもほんの一握りの者たちで、もう白魔法って隠された奥義みたいな扱いだったのよ。そもそも白魔法の存在を知らない人の方が多かったし。だから怪我の治療は薬草か医者の仕事だったわけ。勇者と白魔道士の組み合わせって、凄く珍しくて贅沢なことだったのよ。

なのにあいつら、「勇者様をサポートするために」とかって学校とか作っちゃってさ、白魔道士バンバン増やしちゃってさ!いつの間にか勇者御一行に白魔道士がいるのが当たり前、みたいになっちゃってさ!こちとら必死で人体の構成とか、傷の縫い方とか、そりゃあもう色々勉強してるわけよ。なのに呪文を唱えただけでパーッ!って治療しちゃって、何なの?喧嘩売ってるの!?あいつら人体模型を見たことすらないくせに!解剖とかもしたことないくせに!しかもボランティアだとかで無料でほいほい治療しやがって!


後もっとムカつくのがあれよ、宿屋よ!宿屋って昔は単に夜寝るところだったのよ!?それなのに何なの!?妖精の加護だか精霊の加護だか魔法だか何だか知らないけど、最近の宿屋って何なの?どうなってんの?何で怪我とか病気が、一晩泊まって寝るだけで治るのよ。馬鹿じゃないの!?宿屋は宿屋らしく、人を泊めるだけにしなさいよね!私必死で医者になるために勉強したのに、馬鹿みたいじゃない!何のための医者なのよ!


さらによ、勇者よ勇者!あー勇者め!せっかくこっちが病人見つけてもさ、それも宿屋ですら治せないような病人。やっと医者である私の出番!と思ったら、勇者が「よくわからない山奥で採れた幻の薬草」とか「よくわからないモンスターから採れた妙薬」とか採ってきてさ!そういったわけのわからないもので治療しやがって!お前は医者かっつーの!ヒック!もう!「医者には無理だと言われて…」って、セカンドオピニオンくらい得なさいよ!診断した医者がヤブかもしれないでしょうに!

それに薬草を採りに行くのは良いけど、素人のくせに勝手に調合したり飲ませたりするなっつーの!せめて医者に一言相談しろ!「元気になって良かった!」じゃないわよ、医者が診てみないとソレが効いたかどうかもわからないでしょうに!それに効いたなら効いたで、それを医者に報告しろっつーの。そしたら同じ病気に対する治療法として広めることができるし、その結果助かる人だっているかもしれないじゃん!何笑顔で立ち去ってるのよ、馬鹿!立ち去る前に医者に来い!


おかげで私の最近の仕事は、勇者ですら来ないような、宿屋すら無いようなヘンピな場所で白魔道師が派遣されるまでの仕事か、そうでなければ「残念ながらこれは現代の医学では治せません」と言って勇者にバトンタッチするかしかないわけよ!本当ムカつく!イライラする!あー…ヒック!マスター、お酒もう一杯!ほら、アンタも何か頼みなさいよ。え?いらない?なら良いけど、私は構わず飲むわよ。グビグビグビ…プハー!え?ごめん?なんでアンタが謝るのよ。アンタが謝る必要はないわよ。悪いのはぜーんぶ、世の中なんだから!マスター、おかわり!

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