表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/22

とあるダンジョンマスターの話

おや…私ですか?ぐふふふ、この私に名乗るような名前はありませんよ。ダンジョンマスターと呼んでくだされば結構ですから。勇者様は、ダンジョンへ行かれますよね?真っ暗な洞窟や、出口があるのかもわからないダンジョン。時には深海、時には天空のダンジョンへ行かれますよね?そうでしょうとも。流石は勇者様。世界中を旅するのですからね。素晴らしい行動力で御座いますね。


そのダンジョンで、勇者様が少しでも安全かつ快適に探索できるようにするのが私どもの仕事です。初耳?それはそうでしょう。そうでしょうとも。表向きには知られていない、知られてはいけない仕事なのですから。危険なんですよ、何せ勇者様がダンジョンに入られる前に、私たちダンジョンマスターはダンジョンに入っているのですから。

えぇ、そうです。勇者様がお入りになったダンジョンは、全て私どもダンジョンマスターが入った後で御座います。それも何度も。え?自分たちが一番乗りだと思った?ぐふふ、でもがっかりなされないでください。これもみな、勇者様のためなのですよ。


勇者様は、こういった疑問を持ったことがありませんか?「どうしてダンジョンに宝箱が置いてあるんだろう」って。洞窟のようなところであれば「昔誰かがここに宝を隠した」という可能性もあるかもしれませんが、魔王が作ったダンジョンであればどうでしょう?魔王がわざわざ勇者様のお役に立つアイテムを置いておくでしょうか?私にはそうは思えません。勇者様だってそうでしょう?聡明な勇者様ですから、私がこのことを言うずっと前から疑問に思っておられたことでしょう。


そう、魔王が薬草やダンジョンの地図、財宝などをわざわざダンジョンの宝箱に入れておく必要はありません。財宝なら魔王城に置いておけば良いわけですし、そもそも魔王が薬草を使うとは思えませんからね。そうですよね、勇者様?では誰が薬草や回復薬、地図や武器防具の入った宝箱を置いたのか。えぇ、そうです。その通りですよ勇者様。それが私たちダンジョンマスターの仕事です。


私たちダンジョンマスターは勇者様よりもずっと前にダンジョンに潜伏し、ダンジョンを隅々まで探索します。そして適度に宝箱を設置し、勇者様が少しでも安全にダンジョン攻略ができるようにサポートしているのです。勇者様が過去にダンジョンで見つけたであろうお宝やアイテム、お金は私たちがそこに置いていたのですよ。いえいえ、勇者様。私などに感謝の言葉なんて必要ありませんよ。これが私たちの仕事ですから。でもくださるなら言葉ではなく…いえ、何でもありません。ぐっふっふ。


え?危険ではないのかって?それはもちろん、危険な仕事で御座いますよ。勇者様だってダンジョンで死にかけたことがおありでしょう?ダンジョンマスターである私たちもそうで御座いますよ。常に死との隣り合わせで御座います。けれどそれは元々承知の上なのです。何せ私たちダンジョンマスターはそもそもが「死んだ身」も同然なのですから。どういうことか、ですか。ぐふふ…勇者様には刺激が強い話かもしれませんが、構いませんか?…そうですか。えぇ、えぇ、でしょうとも。ここまで話を聞いたら気になるでしょう。


実はですね、私たちダンジョンマスターは「死刑囚」なので御座います。いえいえ勇者様、ご心配なく。いくら私が死刑が妥当な凶悪犯罪者であっても、勇者様の方がずっとお強いですから。それにほら、この通りきちんと魔法を通して「監視」されておりますから、私は首輪付きで御座いますから、ご安心を。

えぇ、そうです。私も死刑囚なのです。それがどうしてダンジョンマスターをしているかって?そもそもダンジョンマスターの仕事自体、死刑囚がこなすものなので御座います。そしてダンジョンマスターの仕事をするのであれば、その間死刑が延期されるのですよ。人非人と言われる私でも、いざ死刑となると醜くもこの体が震えましてね、ダンジョンマスターになることを承知したのです。幸いと言うか、私は元々は盗賊でしてね。ダンジョンに忍び込んで宝箱を設置するのには向いていたというわけです。おかげ様でこの仕事を始めて、もう5年になります。


ですけれど、勇者様。私最近気がついたのですよ。ダンジョンマスターの仕事自体が、死刑のようなものだと。だってそうでしょう?いつ何時、ダンジョン内の魔物に襲われて死ぬかもしれません。それに人は年々歳を取ります。魔術師ならば重ねた歳にも意味があるかもしれませんが、私たちダンジョンマスターにとって年齢は死への階段なのです。歳を取れば取るほど、体は鈍くなります。そして狭い通路や穴にも入り込めるよう、私たちは最低限の筋肉しかつけません。なので魔物と直接戦ってもまず勝ち目がありません。逃げることができなければ、体が鈍れば、待つのは確実な死なので御座いますよ。

それに勇者様、勇者様にはお仲間がいらっしゃる。しかし私たちダンジョンマスターは死刑囚、お互いに助け合うなんてこともありませんからね。むしろ他のダンジョンマスターを皆殺しにする者だっております。ダンジョン内の人骨は、もしかしたらそうやって殺されたダンジョンマスターかもしれないのですよ。ダンジョンに入る、その恐怖でおかしくなる者もいるのです。

そもそもが死刑囚、おかしい者たちの集まりですから。それに、ダンジョンによってはたった一人で仕事を行わないといけないことだってあります。というか、最初は一人のダンジョンマスターが派遣され、その者が死ねば今度は複数のダンジョンマスターが送られるというのが一般的ですから。



ですから勇者様、この仕事は死刑と本質が変わらないと私は思うのです。



ところで勇者様?ダンジョンによっては罠が仕掛けてあることがあるでしょう?あれは実はダンジョンマスターが仕掛けたものだとご存知でしたか?いえいえ、私個人の意思ではありませんよ。私は勇者様に恨みなんて御座いません。そうではなく、国の意思、世界の意思なので御座います。

だって考えて御覧なさい。勇者はこの世にたくさんいるのですよ。その勇者一人一人を十分に支援出来るほど世の中は豊かではなく、世界は寛容ではありません。魔王が害悪であるように、死刑囚が害悪であるように、多すぎる勇者もまた害悪なので御座います。特に弱い勇者は。

ですから、罠を仕掛けます。罠ごときで死ぬような勇者にはさっさと退場いただいて、残った武器や防具、お金やアイテムはダンジョンの宝箱に入れる。え?もちろんですよ、勇者様。死んだ者の持ち物だからと捨ててしまうような勿体ない事を、私たちはしません。勇者様、今勇者様が装備されている武器だって…ぐふふ。もしダンジョンで手に入れたのであれば、今は亡き勇者の物かもしれませんね…。


ですがね、最近は困ったことに罠にかかる勇者が減りましてね。何でも良い情報源があるらしく、罠も一目見ただけでたちどころに解除されてしまうので御座います。ダンジョンに入る前から事前に罠対策をしているくらいで、おかげで最近は武器や防具が中々手に入らず、苦労しているので御座います。どうにかならないものでしょうかね?ね、勇者様…


あ、そうそう勇者様。私たちダンジョンマスターがこの仕事を辞める、死以外の方法をご存知ですか?それは勇者様、あなた様御一行に加えていただくことで御座います。そう、勇者御一行になれば死刑囚は死刑を完全に逃れることができるので御座いますよ。最も、今のところそういった前例は無いようで…いかかでしょう?私などは…そうで御座いますか、それは残念。それではせめて、今度は凝った罠を仕掛けるとしましょう。ぐっふっふ…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ