第一話 友達
『ねえ、神様っているの?』
と親に聞いたコトがある。
少し戸惑ったように、でも笑って母親は答えた。
「いるわよ。」
すかさず、あたしは聞いてみた。
『どこに〜?』
「見えないんだよ、見えないけど、いつも優を守ってるの」
『ふぅん…』と曖昧な返事をした。
その頃から何となくだが、神様は存在してるモノだと信じていた。
見えない存在。
どこにいるのか知らないけど。説明のしようもない。
ただ頭の片隅に置いていただけ。
中学生になっても、神様は存在すると信じたまま
でも誰にも打ち明けずに過ごした。
中学生になって、新しい友達が出来た。
3年間、同じクラスだった明菜。
頭も良く、スラリと華奢で栗色のストレートヘア。ちょうど肩ぐらいの長さ。
可愛いと言うより美人に近くて大人びた明菜は男子の憧れの的だったが
「あんたウザい。」
と言葉が汚い、と言うか口が悪い。
明菜の少し低音のハスキーボイスが逆に格好良く、妙に色気さえ感じてしまう。
ある日の放課後、クラスにて
「明菜っちは黙ってりゃ文句ねーのになぁ〜」
と男子は愚痴をこぼす。
「うっせぇな。黙れよ愚図。」
『明菜…っ』
慌ててなだめると
「優ちゃんみたいに優しさ持てよなぁ〜」
と男子は挑発する。
「……」
(明菜シカトだ…相当、大人だ…)
ガタンと席を立ち上がり
「優、帰るよ」
と低い声かつ、ふてぶてしい態度で教室を出た。
靴に履き替え、玄関を出た所で
『明菜って大人だねっ』
と駆け寄ると
「まぁね」
と優に視線を送った。サラサラとなびく明菜の栗色のストレートヘアは
夕焼けに染まり、綺麗に光に透けた。
明菜と優が並ぶと身長差は10センチぐらいだろうか、165近くある明菜と155センチほどの優。
なかなか同い年にも見られない。
「優はいつも優しいんだな。名前って影響すんの?」
今日は夕方から寒いからと片方の手袋を半ば強制的に明菜に渡していた。
渋々、明菜は片手だけ手袋をしているが、光景を見た優は爆笑してしまった。
パステルピンクが何て不釣り合いなのかと笑って涙目になった優に
「てめー何笑ってんだよっ!」
と両手でムニーッと優のほっぺを引っ張った。
『あひらぁ〜いひゃいよ〜』と、もはや日本語になってない。
「悪いのはてめーだ、謝んねー!」
とペチッと両手を離した。
『明菜の…ばか』
「あぁっ!?」
その後、ダッシュで逃げ出したが、あっという間に明菜に追いつかれて降参した。
明菜の口の悪さは中学生とは思えなかった。
何で、あたしが明菜と友達になれたかと言うと、中学入学して、当時クラスの厄介者だった明菜は今以上に
人間味がなかった。とにかく人を嫌い、女子も友達になろうと声をかけに明菜の傍へ寄っても
「うっせぇな!散れ!」
と吐き捨てた。
可愛い顔して眉間にシワを寄せた明菜は孤独同然に近かった。
しかしこの一匹狼の格好良さに憧れた人は多かったはずだ。ドラマの世界だけじゃあないんだと思われていたはず。
勿論、女子のイジメの対象になってた。しかし、顔色ひとつ変えない明菜は
どこか強さを持っているかのようだった。
ある日の放課後、忘れ物を取りに教室に戻ると明菜がいた。そこで、あたしの心臓がバクンと音を立てた。
明菜が教室に1人、声を押し殺して泣いている。
夕焼けでオレンジ色に染まる教室の明菜の席で
背中を丸める小さな明菜の姿を
唯一、あたしはイジメに参加せず先生に報告を試みていた、あたし。
偽善者にしか過ぎない、立派にイジメに参加していたと実感させて
泣きながら明菜に駆け寄り力いっぱいに明菜を抱きしめた。ごめんごめんと謝りながらー…。
明菜は泣きはらしていたんだろう、目が腫れたように充血している。
「優……?」
と声を枯らせて明菜は口を開いた。
何が強いだ、分かったようなフリして助けてやれなかったじゃないかと、あたしは責めていた。明菜に失礼でしょうがなかった。
以来、明菜と仲良くなりイジメもぴたりとやんだ。
明菜ともう幼なじみのように長い付き合いのような感覚だった。
こんな明菜との友情が続くように、神様に願っていた…。