表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使の妃  作者: 観月 あき
第一章  夢
9/26

第8話

 結論だけ先に言うと、リチャードの主筋だという人は、十分以上に美しかった。どうやら、シオンはまったくの突然変異(イレギュラー)というわけでもないらしい。

 それはふたりの青年だった。リチャードの話では主筋のひととその友人だということだが、どちらも、シオンと同じく銀の髪に蒼の瞳の持ち主である。彼らは、マリアベルに順に挨拶をした。アルディーンと名乗った青年は、甘く整った美貌と優しい声の持ち主で、彼がリチャードの主筋の人だという。立ち姿や動作のいちいちが優雅で、それこそまるで物語に出てくる王子様みたいだった。

もうひとりの青年はレイトアルシュと名乗り、こちらはどこか冷たい印象のある、無駄のない美貌のひとだ。彼が、アルディーン青年の友人なのだという。はじめマリアベルは、このふたりの美しさに驚いたものの、呆然となるような失態はおかさなかった。彼らはたしかに美しい。だが、どうやらマリアベルには、シオンで耐性ができたらしい。

「おはつにお目にかかります。マリアベル=リールと申します」

 ふたりの青年は、興味深そうな瞳をして、名乗ったマリアベルをしばらく観察していた。それをまっすぐ見つめ返すと、彼らのその美貌をまともに見ることになるので、マリアベルはさりげなく視線を下に向けた。気恥ずかしさも手伝ってのことである。

「さて、姫君」

 そう口火を切ったのは、アルディーンだった。

「だいたいの話はリチャードから聞いた。が、念のためにもう一度、姫君から正確なところをうかがいたい」

 マリアベルは、なんともきまりが悪い思いをした。王族の、しかもこれほど美しい青年から丁重な言葉で話しかけられるなど、どんな反応をすればいいのかわからない。彼らは宮廷の人間らしく、優雅な物腰で上品な話し方をする。地方城主の娘であるマリアベルとは、何もかもが違う。自分の対応を不愉快に思われなければいいが、と心配になった。自分は宮廷の流儀など何も分からない田舎者だ。

「姫君?」

「は、はい」

 声をかけられハッとした。どうやら考え事に没頭していたらしい。短く謝って、それからマリアベルは、自分の覚えている限り正確に、一連のことをふたりに説明した。自分はこの城に遊びに来ていたこと。そこでシオンに求婚されたが、彼とは初対面で、求婚理由に心当たりはないこと。他にもいろいろ、思い付く限りのことを、話した。時折アルディーンは質問を挟んだ。マリアベルはその全部に答えた。

 すべて聴き終えたアルディーンは、自身の友、レイトアルシュにたずねた。

「心当たりはあるか?」

 レイトアルシュはゆっくり、うなずく。

「シオンか。珍しい名ではないからな」

「王族で、は?」

「リアルカの人間も数えるのなら、少なくとも六人はいる。もっとも、愛称も含め"シオン"と呼ばれる可能性のある者という意味だが」

 レイトアルシュの言葉に、アルディーンはすこし考え込む。それから視線をマリアベルに向けた。

「なるほどな。やっぱり、会った方が早いか。―――リチャード」

「はい!」

 壁際にずっと静かに立っていたリチャードは、いきなり名を呼ばれ飛び跳ねた。そんな彼にアルディーンは言う。

「案内してくれ。会いに行く」

「かしこまりました」

「こいつも連れていく」

 と、レイトアルシュを示す。それから、マリアベルの方にからだを向けた。

「それから、姫君にご一緒願いたい。姫君、構わないか?」

「はい」

 ふたりが立ち上がったので、マリアベルも慌てて席を立った。リチャードが扉を開けて、一歩先んじ廊下に出る。

「では、案内いたします。こちらへ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ