第8話
結論だけ先に言うと、リチャードの主筋だという人は、十分以上に美しかった。どうやら、シオンはまったくの突然変異というわけでもないらしい。
それはふたりの青年だった。リチャードの話では主筋のひととその友人だということだが、どちらも、シオンと同じく銀の髪に蒼の瞳の持ち主である。彼らは、マリアベルに順に挨拶をした。アルディーンと名乗った青年は、甘く整った美貌と優しい声の持ち主で、彼がリチャードの主筋の人だという。立ち姿や動作のいちいちが優雅で、それこそまるで物語に出てくる王子様みたいだった。
もうひとりの青年はレイトアルシュと名乗り、こちらはどこか冷たい印象のある、無駄のない美貌のひとだ。彼が、アルディーン青年の友人なのだという。はじめマリアベルは、このふたりの美しさに驚いたものの、呆然となるような失態はおかさなかった。彼らはたしかに美しい。だが、どうやらマリアベルには、シオンで耐性ができたらしい。
「おはつにお目にかかります。マリアベル=リールと申します」
ふたりの青年は、興味深そうな瞳をして、名乗ったマリアベルをしばらく観察していた。それをまっすぐ見つめ返すと、彼らのその美貌をまともに見ることになるので、マリアベルはさりげなく視線を下に向けた。気恥ずかしさも手伝ってのことである。
「さて、姫君」
そう口火を切ったのは、アルディーンだった。
「だいたいの話はリチャードから聞いた。が、念のためにもう一度、姫君から正確なところをうかがいたい」
マリアベルは、なんともきまりが悪い思いをした。王族の、しかもこれほど美しい青年から丁重な言葉で話しかけられるなど、どんな反応をすればいいのかわからない。彼らは宮廷の人間らしく、優雅な物腰で上品な話し方をする。地方城主の娘であるマリアベルとは、何もかもが違う。自分の対応を不愉快に思われなければいいが、と心配になった。自分は宮廷の流儀など何も分からない田舎者だ。
「姫君?」
「は、はい」
声をかけられハッとした。どうやら考え事に没頭していたらしい。短く謝って、それからマリアベルは、自分の覚えている限り正確に、一連のことをふたりに説明した。自分はこの城に遊びに来ていたこと。そこでシオンに求婚されたが、彼とは初対面で、求婚理由に心当たりはないこと。他にもいろいろ、思い付く限りのことを、話した。時折アルディーンは質問を挟んだ。マリアベルはその全部に答えた。
すべて聴き終えたアルディーンは、自身の友、レイトアルシュにたずねた。
「心当たりはあるか?」
レイトアルシュはゆっくり、うなずく。
「シオンか。珍しい名ではないからな」
「王族で、は?」
「リアルカの人間も数えるのなら、少なくとも六人はいる。もっとも、愛称も含め"シオン"と呼ばれる可能性のある者という意味だが」
レイトアルシュの言葉に、アルディーンはすこし考え込む。それから視線をマリアベルに向けた。
「なるほどな。やっぱり、会った方が早いか。―――リチャード」
「はい!」
壁際にずっと静かに立っていたリチャードは、いきなり名を呼ばれ飛び跳ねた。そんな彼にアルディーンは言う。
「案内してくれ。会いに行く」
「かしこまりました」
「こいつも連れていく」
と、レイトアルシュを示す。それから、マリアベルの方にからだを向けた。
「それから、姫君にご一緒願いたい。姫君、構わないか?」
「はい」
ふたりが立ち上がったので、マリアベルも慌てて席を立った。リチャードが扉を開けて、一歩先んじ廊下に出る。
「では、案内いたします。こちらへ」