第7話
リチャードはリリエラの二歳下の弟ということだが、背丈は姉をすでに追い抜いている。マリアベルが目の前に立つと、彼を見上げるかたちになった。日に焼けて毛先の色が抜けた、茶色の髪。人に好かれそうな顔立ちをしている。榛色の瞳が、彼がリリエラの弟だということを思い出させた。
と、彼はマリアベルを見て、にっこりと笑った。
「こんにちは。俺はリチャード=アイリス。姉が、いつもお世話になってます」
礼儀正しくリチャードは言った。その様子に、マリアベルは好感を抱いた。
「はじめまして。わたしは、マリアベル=リール」
名乗ると、リチャードはしばらくマリアベルを見つめた。が、頭を振って、真摯な表情になる。
「マリアベル姫。姉から文を受け取ったので、だいたいのことは知りました」
「え」
彼も事情を知っているのだろうか。リリエラの方を見ると、彼女はうなずいた。
「先に教えちゃったの、ごめんね、マリアベル」
「いいえ」
ということは。他家に仕えているというリチャードがアイリス城に帰ってきたのは、そのためなのだろうか。――――――わざわざ?
マリアベルが彼に視線を戻すと、榛色の瞳がまっすぐマリアベルを見つめた。リチャードは言った。
「実は、マリアベル姫にお願いがあるんです」
「お願い?」
「会ってほしい人がいるんです。俺の主筋で、宮廷にも出仕されている方だから、そのシオンとか言う人のことも知らないかと思って」
驚いて、マリアベルはすこしの間、黙り込んだ。なるほど、リチャードの主筋ということは、当然、身分の高い人なのだろう。王族のシオンと面識がある可能性もある。
「その、勝手に決めてすいません」
その沈黙を誤解したのか、慌てたようにリチャードは付け足した。いいえ、とつぶやいて、マリアベルは言う。
「ありがとうございます。会わせていただきます」
「よかった。―――それと、姫にもうひとつ」
「はい」
「その……」
言いよどむ彼の、なんとも形容しがたい表情。非常に言いにくそうに、リチャードは告げる。
「あまり驚かないでほしいんです。その、俺の主筋の方も、王族なんです」
「――――――」
すこし経って、その言葉の意味を理解する。
王族。ということは、やはり、シオンのように美しいのだろう。わざわざリチャードが念を押すくらいに。ようは、王族の人間の前でぽかんと見とれ立ち尽くすな、ということだ。それは相手に対し、たいへんな非礼となる。
だが、マリアベルはシオンという存在を知っている。だから、多少は耐性ができているかもしれない。それに、彼以上に美しい存在がそうそうあるとは思えない。
マリアベルは言った。
「努力して、みます」
それに対し。
一拍おいて、リチャードは吹き出した。それから、先ほどよりもすこしくだけた口調で、言った。
「おもしろい方だ。―――それじゃあ、呼んできます。ここで待っていてください」