第6話
マリアベルがほとんど硬直して立ち尽くしたまま、どれくらいの時間が経ったのだろう。
唐突に、部屋の扉が叩かれた。びくっとして、マリアベルは扉を振り返った。シオンはゆっくりと顔を上げる。
どうぞ、とシオンが言った。入ってきたのは、アイリス城の召し使いだった。
「リリエラお嬢様。いま、使いが参りまして」
「使い?」
リリエラが聞き返す。その召し使いは答えた。
「はい。リチャード様が、戻られるそうです」
言われたことを、リリエラはすぐには理解できないようだった。だが、みるみるとその目が輝き出す。
「リチャードが!? じゃあ、間に合ったのね!」
「……リリエラ?」
まったく話が見えない。マリアベルはシオンに視線を向けたが、彼も頭をかしげていた。
リリエラはマリアベルを見る。マリアベルを振り返る彼女は、興奮しているのか頬に血がのぼって、なんだか顔色がよかった。
「マリアベル、一度広間へ戻りましょう。リチャードに紹介したいわ」
「でも…」
シオンさまのことは。そう言いかけたマリアベルに「大丈夫だから」と言って、リリエラはその手を引っぱった。
それからシオンに急いで退室の言葉を述べると、まるで逃げ出すような勢いで、その部屋を飛び出した。