第4話
どうしてこんなことになったのだろう。マリアベルは思った。
誰か、これは実は夢だったのだと、言ってくれないだろうか。あの日から、そんなことをもう何百回考えたのか、わからない。
何の取り柄もない女の子が、ある日とつぜん、王子さまから求婚される? そんな小説みたいなことが、起こるなんて。物語のなかなら"有り"で済むだろうが、これは現実世界のできごとだ。それに。
マリアベルは鏡を見た。うつっているのは、鳶色の髪と灰色の瞳の少女。容姿はいたって普通だ。ひとによっては可愛らしいと言ってくれたりもするが、美人と言われたことは、ない。
とてもではないが、シオンと名乗った彼に釣り合うような美貌ではない。そもそも、彼に釣り合うような美貌の持ち主が存在するとも思えないが。―――ともかく。彼に求婚されるような理由を、マリアベルに持っていない。目立つ美人ではないし、実家が裕福というわけでもない。
だったら、なぜ、シオンはマリアベルに求婚した?
まさか自分に一目惚れをした、なんてばかなこと、マリアベルは思っていない。考えもしないだろう。誰だろうとあの天使に会ったら、そんな自惚れなどできなくなる。
ともかく。
いまのマリアベルには、シオンの考えがまったく、わからないのだ。
リリエラの家族、アイリス家は、シオンの扱いに困っていた。彼がシオンという名前であること以外に、何も知らない。調べたところ、アイリス家の招いた客人でもないらしい。それに、シオンは姓を名乗らないから、どこの家の人間かわからない。
けれど、彼が王族であることは疑い無い。銀髪蒼眼は、かつてマリアベルの兄も言っていたように、この国の王族の特徴だ。王族に向かって、姓を名乗ってくれとも言えない。それはとても失礼なことだ。普通、身分の高い者は自分から名乗らないものだから。
それに。
より深刻な問題があった。
三日しかなかったマリアベルの滞在期間が、もう終わってしまうのだ。