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天使の妃  作者: 観月 あき
第二章  赤
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第15話

急ぎ屋敷の使用人を呼び、手を借りて着替えを―――あの深紅の、ベルベットのドレスに―――済ませたあと、マリアベルは案内されて部屋を出た。

たいして歩かないうちに、扉の開かれている部屋に着く。

いる。こちらから声を掛ける前に、向こうがマリアベルに気付いた。


「マリアベル!」


 部屋のなかでシオンが、弾かれたように長椅子から立ち上がり駆け寄ってくる。はっとマリアベルが身構える隙もなく、抱き着く。それから、あらためてシオンはマリアベルを見た。

「よかった。ドレス、似合っているね」

「え。この、ドレスは?」

「つくらせたんだ。屋敷で一番腕のいい職人に」

 さらりと何でもないように言って、彼は。その美しさを惜しうこともせずに笑う。

「マリアベル、ルーシュに会いに行こう。お呼ばれしたんだ」

「レイトアルシュさまから、ですか」

「うん。もう馬車は呼んであるよ」

 シオンはからだを離すと、当たり前のようにマリアベルに手を差し出す。ちょっとためらって、マリアベルはその手をとった。

「行こう」

 シオンは言った。マリアベルはうなずいた。





 馬車の窓から見えるのは、どこまでも続く高い壁だけだった。

「シオンさま、この塀は、お城の壁ですか」

「ううん、お城はもうちょっと向こうだよ。これはエディのお屋敷」

「エディ?」

「ルーシュの弟だよ」

「?」

 ということは、レイトアルシュの屋敷はここではないらしい。しかし、シオンの言い方からすると、レイトアルシュは弟と一緒に住んでいないのだろうか? 家族なのに。それとも王都ではそれが普通なのだろうか。

「―――まぶしくなるから、閉めるね」

 シオンは腰を浮かせて、窓掛け(カーテン)を引いた。まぶしくなる、と言ったのは、シオンの銀の髪に反射する光が、正面に座ったマリアベルにはまぶしいだろうということだ。

「あとちょっとで着くよ。楽しみだなぁ。マリアベルに、レイを紹介したいな」

「?」

 また知らない人名が出てきた。が、聞き覚えがある。以前彼は、レイトアルシュのことを『レイのお兄さん』と呼んでいた。

「たしか………アルディーンさまの、弟君の?」

「うん」

「レイトアルシュさまのお屋敷にいらっしゃるのですか?」

 レイトアルシュとアルディーンは友人同士と聞いていたが、家族ぐるみで付き合いがあるのだろうか。マリアベルはそう思った。けれど。

「違うよ」

シオンは言った。

「違う?」

「レイトアルシュのお屋敷じゃなくて―――」

 シオンがそう言いかけた、その時。

 馬車が、止まった。

 とんとん、と外から扉がたたかれる。シオンが顔を上げる。

「着いた。マリアベル、行こう!」

 扉が開く。差し込んできた光が彼の髪に弾かれてまぶしくて、マリアベルは目を細めた。シオンに手を引かれ、ゆっくりと外に出る。――――――途端。

 視界いっぱいに、"それ"は現れた。

「えっ」

 そんな声をもらし、マリアベルはかたまってしまった。

「お――――、お城――」

 そう。城だ。それは分かる。

 しかし。これは――――なんて、大きいのだろう。見上げると、まるで天を覆い尽くすかのように思えるほどに。

「シオンさま……。これ、が」

「王城だよ」

 何でもないように、彼は言う。そして、いまだに驚きから抜け出せないでいるマリアベルの手をひっぱる。

「行こう! みんながいるよ!」

 駆け出した勢いに連れられ、マリアベルも走り出す。上等のドレスの裾が乱れるのも構わずに。

 そんなふたりを、見届ける者は誰もいなかった。

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