第12話
馬車のなかから外の風景を眺めて、ほぅ、と何度目かのため息がこぼれる。やはり、ここは王都だ。この国の中心部なのだ。人の数もにぎやかさも、道中通った街で見てきたものとは段違いだった。
マリアベルはもっと外の風景を見ていたかった。けれど、王都の城門をくぐってすぐに、リチャードが馬車の窓掛けを閉めてしまった。
「あら、どうして閉めちゃうの?」
リリエラが言うと、リチャードはなぜか、なんとも微妙な表情でシオンを見る。
「いろいろと目立つから。……」
「目立つ?」
一度訊き返したものの、リリエラもシオンを見ると、納得したように何回かうなずいた。馬車のなかから外が見えるということは、逆に、外から馬車のなかが見えるということでもある。シオンの銀の髪はたしかに目立つだろう。
閉じられた窓を、名残惜しそうにマリアベルは見た。
馬車は城下第一の区画―――マリアベルたちは知らなかったが、外王宮とも呼ばれる、大貴族しか屋敷を構えることのできないその場所に入った。中央の大通りと変わらないくらい大きな道を、二台の馬車がゆっくりと進む。途端、風景は変化にとぼしくなった。どの屋敷も、高い壁に覆われていて、視界がさえぎられるのだ。
それからどれくらい進んだのだろうか。やがて馬車は、そこに並ぶ広大な敷地を誇る屋敷の一つに、入る。しばらくして、馬車は止まった。
ノックのあとに扉が外から開けられ、シオンが一番先に降りた。彼はごく自然な動きでマリアベルに手を差し出した。マリアベルはちょっとためらったが―――こんな“お姫さま”扱いをされる理由はない―――、その手をとって、馬車から降りた。
外へ降り立ったマリアベルの目の前にあったのは、信じられないくらいに広い、広すぎると言ってもいいくらいの規模の、屋敷だった。いままで見たこともないほど大きく、立派なものだ。堂々とした建築の、白の建物。
すばらしく広い庭は隅々まで手入れが行き届き、ところどころに警備のためか、兵士のような人が立っている。
馬車が入ってきたのは、大型馬五頭分は幅のある、大きく豪華な門。
ここがお城なのだろうかと、そんなことを一瞬思ったくらいだ。けれど、それはありえない。何故なら、この大きな屋敷の後方には、それの何十倍、何百倍あるのか分からない、王城が見えているのだから。
しかし、それにしても。こんな巨大な屋敷がひとつの家の所有物だなんて、考えられない。見ると、リリエラもまったく目の前のものが信じられないような顔をしていた。けれど、シオン、そしてリチャードに驚いた様子はない。
「マリアベル、ちょっと待っていて」
シオンはそう言って、先に到着していたアルディーンとレイトアルシュのところへ小走りで向かった。その三人の様子を離れたところから見守っていると、やはりと言うべきか、シオンの発言に対しふたりは頭をおさえるそぶりを見せた。何かあったのかとそわそわとしながら待っていると、行きとは違い、スキップするような早歩きでシオンは戻ってきた。
「マリアベル、あのね」
そして、彼は再び、とんでもない発言をしてくれた。
「今日は、このお屋敷に泊まろう―――レイのお兄さんが、泊めてくれるから」